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雨の日の転倒から復活したCB450T乗りの話に、Hondaの頑丈さとライダーの成長を見る

急に冷え込んできましたね。熱いコーヒーを片手にガレージで愛車を眺める時間が、走る時間と同じくらい至福に感じる今日この頃です。皆さん、いかがお過ごしでしょうか。

さて、今回は海を越えた海外のライダーの投稿から、非常に心に響くエピソードを見つけましたので、それについて私の経験を交えてお話ししたいと思います。主役は免許取りたての新人ライダーと、彼の相棒である1982年式のHonda CB450T。雨の日の慢心から転倒し、一度はバイクを降りようとまで思い詰めながらも、父親の支えと自らの手による修理で復活を遂げたという物語です。

この話、他人事とは思えません。私も若かりし頃、似たような経験を幾度となくしてきました。そして何より、40年以上前のバイクが適切な修理で再び走り出せるという事実に、改めてHondaというメーカーの偉大さを感じずにはいられません。今回は、このエピソードを深掘りしながら、失敗との向き合い方について書いていきます。ライターの田中 恒一がお送りします。

結論:転倒はライダーとしての通過儀礼であり、Honda車は何度でも蘇る

まず結論から申し上げますが、怪我さえなければ、転倒はライダーをより賢く、より深くバイクと結びつけるための通過儀礼のようなものです。投稿者の彼は、走行距離1500マイル(約2400km)を超えたあたりで「俺、結構乗れてるじゃん」と自信を持ち、雨の中でタイヤの溝も怪しいまま走り出し、コーナーでスリップダウンしました。

精神的なショックで「もう二度と乗らない」とまで落ち込んだ彼ですが、1ヶ月後には見事に復活しています。ここで重要なのは、彼がただ修理工場に丸投げするのではなく、父親と一緒にヘッドライトを交換し、曲がったステーを戻し、自分の手で愛車を蘇らせたという点です。Hondaのバイクは、「優等生」と揶揄されることもありますが、それは裏を返せば基本設計が堅実で、整備性が良く、何度でも蘇るタフさを持っているということ。このCB450Tも、オーナーの成長をじっと待ってくれていたのです。

元業界人が分析する「転倒からの復帰」3つのポイント

私が長年バイク業界に身を置き、また一人のHonda党として見てきた視点から、今回のエピソードの重要なポイントを3つ解説します。

1. 「慣れ」という名の魔物とタイヤの重要性

投稿者は「1500マイル走って自信がついた」と語っていますが、これは本当によくある話です。私も18歳でCB250RSに乗っていた頃、少し峠道を走れるようになっただけで自分がGPライダーになったかのような錯覚に陥りました。その結果待っているのは、物理の法則という冷酷な現実です。特に雨の日の路面は、タイヤの性能が全てと言っても過言ではありません。

彼は「溝が怪しいタイヤ」で出かけてしまったことを悔やんでいますが、これはまさにタイヤ交換というメンテナンスの沼を避けて通った結果とも言えます。現在私が乗っているNC750Xは、トラクションコントロールやABSなどの電子制御が充実しており、ライダーのミスをカバーしてくれますが、それでもタイヤがダメなら滑ります。タイヤは命を乗せている唯一の接地点。ここをケチると、今回の彼のように草も生えない状況に陥ります。しかし、彼は運良く軽傷で済みました。装備をしっかりしていたことが、最悪の事態を防いだのです。

2. 80年代Honda車の驚異的な生存能力

このエピソードで特筆すべきは、1982年式のCB450Tが、転倒しても致命的なダメージを負わなかったという点です。ヘッドライトが割れ、いくつかの部品が曲がった程度。エンジン本体やフレームが無事だったからこそ、eBayで部品を調達して直すことができました。

ここにHondaの技術屋魂を感じます。私が所有するBROSもそうですが、この時代のHonda車はとにかく過剰なほど頑丈に作られています。「壊れないことが性能」という信念が、設計図の隅々から滲み出ているのです。最近のバイクは軽量化のために樹脂パーツを多用しますが、当時の鉄の塊のようなバイクは、転倒時の衝撃をうまく分散させたり、安価なパーツが身代わりになって壊れるようにできています。40年経っても部品が見つかり、素人の手で直せてしまう。この信頼性こそが、私がHondaを愛してやまない理由です。

3. 「親父とレンチを握る」というメンタルケア

彼が再起できた最大の要因は、父親の存在でした。「お父さんに懐中電灯を持ってもらって、一緒に修理する」という一節は、読んでいて胸が熱くなりました。バイクの修理は、壊れた機械を直すだけでなく、壊れたライダーの心を修復する作業でもあります。

私もX4に乗っていた頃、立ちゴケでレバーを折ってしまい、情けなさで呆然としたことがあります。しかし、工具を握り、自分の手で新しいレバーを取り付けた瞬間、愛車への愛着が倍増し、「次はもっと大切に乗ろう」という決意が生まれました。親子でガレージに籠もり、油まみれになりながら旧車を直す。その時間は、何物にも代えがたいほど尊いものです。彼はこの経験を通じて、単なるライダーから、本当の意味での「モーターサイクリスト」になったのだと思います。

転倒修理にかかる費用の目安

今回のケースのように、カウル(風防)のないネイキッドバイクで、低速でのスリップダウンの場合、修理費用は意外と抑えられることがあります。あくまで目安ですが、参考までに。

もしこれが、私がかつて乗っていたST1300パンヨーロピアンのようなフルカウル車だったら、カウル交換だけで十数万円コースという深い沼にハマっていたかもしれません。その点、ネイキッドやオフロード寄りのバイクは、実用面でも財布に優しいと言えます。

転倒後、再出発するためのチェックリスト

もし不幸にも転倒してしまった場合、身体の安全確保が最優先ですが、その後バイクを復帰させるためのチェックリストをまとめました。私も常備している心覚えです。

  1. 身体のダメージ確認:アドレナリンが出ている時は痛みを感じにくいものです。翌日以降も無理は禁物。
  2. オイル・液漏れの確認:エンジンケースにヒビが入っていないか、地面にシミができていないかを凝視してください。
  3. 重要保安部品の作動確認:ブレーキ、アクセル、ハンドルがスムーズに動くか。特にブレーキレバーの曲がりは操作ミスに直結します。
  4. ホイールとフォークのアライメント:ハンドルを真っ直ぐにしてもタイヤが斜めを向いていないか。
  5. メンタルのリセット:ここが一番重要です。「下手だから転んだ」と責めすぎず、「限界を知る良い機会だった」と捉え直すこと。

よくある質問(FAQ)

Q: 一度転倒してから、怖くてカーブが曲がれません。どうすればいいですか?

A: 非常に分かります。恐怖心は防衛本能なので、無理に消そうとしなくて大丈夫です。まずは自分のペースで、カブで散歩するくらいの速度まで落として走りましょう。私がNC750Xに乗っていて感じるのは、低重心で安定したバイクに身を任せ、視線を遠くに向けるだけで、バイクは勝手に曲がってくれるということです。Hondaのバイクはライダーを裏切りません。焦らず、バイクを信じてみてください。

Q: 古いバイクでの練習はリスクが高いでしょうか?

A: 確かにABSなどの電子制御がない分、ライダーの操作がダイレクトに挙動に出ます。しかし、今回のCB450Tのように、構造がシンプルで頑丈なバイクは、整備を通じてマシンの仕組みを学べる最高の教材でもあります。BROSに乗るとき、私はいつもバイクと対話している気分になります。最新の電子制御も素晴らしいですが、旧車で磨いた感覚は一生モノの財産になりますよ。

転倒は誰にとっても嫌なものですが、それを乗り越えた先に、より深く豊かなバイクライフが待っています。皆さんも、どうか安全運転で、良きバイクライフを。

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