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ホンダGL1800のオイル粘度!指定外5W-50で20万マイル走る猛者への見解

みなさん、こんにちは。週末のツーリング計画を立てる際、天気予報とにらめっこする時間が何よりも幸せな今日この頃ですね。モーターサイクルナビゲーターのライター、田中恒一です。元業界人の視点と、52年の人生で培ったホンダへの偏愛を交えて、今日も熱く語らせていただきます。

さて、今回は非常に興味深いトピックを目にしました。あるゴールドウイング(GL1800)乗りのお話なのですが、なんとこの方、歴代のGLを乗り継ぎ、それぞれで20万マイル(約32万キロ!)も走破しているというのです。しかもキャンピングカーを牽引して。これだけでも十分に驚きなのですが、さらに衝撃的なのは「指定粘度(10W-30または10W-40)を無視して、最初からモービル1の5W-50(フルシンセティック)を使い続けている」という点です。

マニュアルには「モリブデン添加剤入りのオイルは避けるように(クラッチ滑りの原因になるため)」と明記されているにもかかわらず、モリブデンを含むそのオイルでトラブルゼロだと言います。「私は運が良いだけなのか? それともエンジンの寿命を縮めているのか?」という問いかけに対し、ホンダ党として、そして元プロとして、震える手でキーボードを叩かずにはいられません。

結論:ホンダの技術力こそが「運」を超越した守護神である

まず結論から申し上げますと、このオーナーさんは間違いなく運が良いです。しかし、それ以上に称賛すべきは、指定外の粘度や添加剤すらも許容して走り続けるホンダエンジンの異常なまでの耐久性でしょう。

私自身、かつてX4という大排気量車に乗っていた時期がありましたが、あの巨体を動かすトルクと発熱量は凄まじいものがありました。また、ST1300パンヨーロピアンで長距離を走っていた経験からも言えますが、ホンダのエンジンは「優等生」と揶揄されることがあります。しかし、過酷な状況下でも壊れないその設計こそが、実は最高の性能なのです。まさに尊いとしか言いようがありません。

とはいえ、プロの視点では、この「5W-50の使用」は推奨できません。なぜトラブルが起きていないのか、そしてなぜリスクがあるのか、業界視点で3つの理由を解説します。

理由1:クリアランスとオイルポンプへの負荷(粘度の沼)

オイル選びというのは、一度ハマると抜け出せない底なしの沼のようなものです。GL1800のような精密に組まれた水冷エンジンは、指定された10W-30や10W-40の粘度で最適な油膜保持と流動性が確保されるように設計されています。

5W-50という粘度は、高温側が「50」と非常に硬いオイルです。私が乗っている空冷の古いBROSならまだしも、精密な現行水冷エンジンにこれを入れると、抵抗が増え、燃費が悪化するだけでなく、オイルポンプへの負荷が増大します。特に冷間時の始動性は良くても、温まった後のオイルの回りが遅くなる可能性があるのです。それでも20万マイル走っているというのは、オーナーさんの乗り方が余程丁寧か、あるいは常に高負荷(牽引)で油温が高く、結果的に硬いオイルが適正な柔らかさになっていた可能性も否定できません。これには思わず草が生えるほどの驚きを隠せません。

理由2:湿式クラッチとモリブデンの相性

バイクの多くはエンジンオイルがミッションやクラッチも潤滑する「湿式クラッチ」を採用しています。ここで問題になるのが、自動車用オイルなどに含まれる減摩剤(モリブデン等)です。これらは摩擦を減らすために最高の働きをしますが、摩擦が必要なクラッチ板にとっては「滑り」の原因になります。

私の愛車であるNC750XはDCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)を搭載しており、オイル管理には特に気を使いますが、マニュアル車であっても基本は同じです。今回のケースで滑っていないのは奇跡に近いです。おそらく、キャンピングカーを牽引するという高負荷状態で、クラッチスプリングが圧着されている時間が長く、半クラッチを多用しないハイウェイ走行がメインだったことが幸いしたのかもしれません。

理由3:熱管理と冷却性能のバランス

硬いオイルは流動抵抗により、エンジン内部の熱を奪ってオイルパンに戻るスピードが遅くなる傾向があります。ホンダの水平対向6気筒エンジンは冷却効率が良いとはいえ、指定外の硬いオイルはオーバーヒートのリスクを潜在的に高めます。私がかつて所有していたスーパーカブ50ですら、夏場に硬すぎるオイルを入れると吹け上がりが重くなったものです。

メーカーが「10W-30」を指定するのは、近年の加工精度の向上により、サラサラのオイルでも十分に油膜を保持でき、かつ燃費と冷却のバランスが最高だからです。あえて50番を入れる必要性は、現代のホンダ車においては、サーキット走行などの特殊な環境を除いてほぼありません。

費用の目安:エンジンの健康を守るコスト

ここで、指定オイルを使用した場合と、トラブルが起きた場合のコストを比較してみましょう。日本円での概算になります。

こうして見ると、数千円のオイル代をケチったり、独自の理論で粘度を変えたりするリスクがいかに大きいかが分かります。純正、もしくはJASO規格(MA/MA2)を通った指定粘度のオイルを入れることが、最も安上がりな保険なのです。

トラブル防止のチェックリスト

愛車を長く乗るために、以下のポイントをチェックしてください。私の経験上、これを守ればホンダ車は一生モノです。

よくある質問(FAQ)

Q. 走行距離が伸びたら硬いオイルにした方がいいですか?
A. 一般的に、過走行でクリアランスが広がり、オイル上がり・下がりが見られる場合は粘度を上げることが有効な場合があります。しかし、私のBROSやNC750Xのように、正常に動いているなら指定粘度のままで十分です。

Q. 化学合成油(シンセティック)と鉱物油、どちらが良いですか?
A. 性能面では化学合成油が有利ですが、旧車(私のCB-1の頃のような)ではガスケットへの攻撃性を懸念する声もありました。しかし、近年のゴム部品は優秀なので、GL1800クラスなら化学合成油(ホンダ純正G3やG4など)がベストマッチです。

Q. ホンダ純正オイル以外を使うと壊れますか?
A. いいえ、規格と粘度が合っていれば壊れません。ですが、純正オイルはエンジンの開発段階からテストされている「専用パーツ」の一部です。迷ったら純正。これが私の鉄則です。

今回のオーナーさんの事例は、ホンダエンジンの頑丈さを証明する武勇伝としては面白いですが、真似をするのは推奨しません。メーカーの技術者たちがテストを重ねて導き出した「指定粘度」には、数字以上の意味と魂が込められているのですから。

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