最近、朝起きると腰のあたりに「今日の天気」を予報するセンサーが埋め込まれている気がする、ライターの田中です。寒暖差が激しい季節、皆様いかがお過ごしでしょうか。
さて、今回は非常に興味深いトピックを取り上げます。「免許取得直後に2025年型のホンダ CB650ホーネット(恐らくCB650Rあるいは新世代ホーネットの派生を指していると思われます)を購入した」という、なんとも羨ましく、そして少々スパイシーな話題です。投稿者の方は、教習車であるBMW G310 GSとのあまりのパワーの違いに「怖じ気づきつつも、笑顔が止まらない」という、まさにバイク乗りの沼に片足を踏み入れた状態のようです。
私自身、16歳でスーパーカブから始まり、CB-1、BROS、そして巨艦X4を経て、現在はNC750Xに行き着きました。この「排気量とパワーの階段」を登ったり降りたりしてきた経験、そして元業界人としての視点から、この「最初の一台にミドルクラスのホンダ車を選ぶ」という決断について語らせていただきます。
目次
結論:その「恐怖と笑顔」こそが、ホンダの真骨頂である
結論から申し上げますと、この選択は大正解であり、同時に最高の教材を手に入れたと言えます。投稿者様が感じた「アイドリングだけで発進できるトルクの太さ」や「クラッチの繊細さ」。これこそが、私が25年間業界に身を置き、ホンダ車を乗り継いできた理由である技術屋魂の結晶だからです。
教習車の310cc単気筒から、最新の650ccクラス(4気筒またはパラレルツイン)への乗り換えは、まさに軽自動車からスポーツセダンに乗り換えるようなもの。最初は「スパイシー」すぎて胃もたれするかもしれませんが、そのスパイスこそが、ライダーを育てるのです。
業界視点で紐解く、この選択が「尊い」3つの理由
1. 恐怖を安心に変える「優等生」のトルク管理
投稿者様は「アイドリングで発進できることに自信を感じた」と仰っています。これ、実はものすごいことなんです。私が30歳でX4に乗っていた頃、その暴力的なトルクに最初は圧倒されましたが、極低速時の粘り強さに何度助けられたことか。
ホンダのエンジンはよく「優等生」と揶揄されます。しかし、それは退屈という意味ではありません。「ライダーがミスをしても、エンジンがカバーしてくれる」という、極めて高度な調律が施されているのです。教習車のG310 GSは回して走る楽しさがありますが、ホンダのミドルクラスは「回さなくても走る余裕」があります。この「余裕」が、初心者特有のエンストゴケ(立ちゴケ)を防ぐ最大の武器になります。まさに、ホンダの技術力は尊いと言わざるを得ません。
2. 最初からフル装備という「ガチ勢」の判断
この投稿で私が最も感心したのは、納車前にフレームスライダー、エンジンカバー、そして前後ドラレコ(Innovv K7)を装着している点です。さらに、自分に合う安全装備(AAやAAA規格)をドイツから取り寄せるという徹底ぶり。これは、初心者離れした「ガチ勢」の判断です。
私も現在の愛車NC750Xには、実用性を重視してドラレコやグリップヒーターを完備していますが、若い頃の私は「見た目が悪い」とスライダーを敬遠し、BROSを倒してクランクケースを削った苦い経験があります。投稿者様が「そっと倒したけれどスライダーのおかげで助かった」というのは、まさに初期投資の勝利。バイクを倒すのは恥ではありません。倒した後のリカバリーにお金をかけないのが賢いライダーです。
3. 「スパイシー」なクラッチこそが上達への近道
「クラッチの遊びが少なく、摩擦ゾーンが強烈」。この感覚、痛いほど分かります。私の所有するBROSもVツイン独特のドン付きと強いエンブレがあり、最初はギクシャクしました。しかし、この「ダイレクト感」に慣れると、指一本のミリ単位の操作で車体をコントロールできるようになります。
教習車の曖昧なクラッチ操作では許されていた雑な操作が、このバイクでは通用しません。つまり、このバイクに乗っているだけで、勝手に「クラッチ操作が上手い人」に矯正されていくのです。最初は怖いかもしれませんが、その先には人馬一体の快感が待っています。これぞバイク乗りの沼です。
費用の目安(プロによる概算)
このクラスの最新モデルを、投稿者様のようなフル装備で乗り出す場合のコスト感をざっくり計算してみます。
- 車両本体価格: 約100万〜110万円(諸費用込)
- ガード類(スライダー・カバー): 約5万〜8万円(工賃込)
- 電装系(ドラレコ・ヒーター): 約6万〜10万円(Innovvは高級品です)
- 海外製高機能ウェア: 約5万〜10万円
総額でおよそ120万〜140万円コースでしょうか。最初の1台としては勇気のいる金額ですが、リセールバリューの高いホンダ車であることを考えれば、決して悪い投資ではありません。
納車時に確認したいチェックリスト
これから大型・ミドルクラスに挑む方へ、私の経験からのアドバイスです。
- スライダーの装着位置: 立ちゴケ時に本当にカウルやエンジンを守れる位置にあるか確認。
- クラッチレバーの調整: 投稿者様も触れていましたが、手の大きさに合わせて「繋がる位置」を調整するのは基本中の基本です。
- 足つきの確認: 無理ならローダウンも検討を。私の短足ではX4の時はバレリーナ状態でしたが、NC750Xでは厚底ブーツで対策しています。
- 心のブレーキ: 性能は「スパイシー」ですが、公道では「マイルド」な運転を心がけてください。
よくある質問(FAQ)
Q: 初心者に650ccは大きすぎませんか?
A: 昔は「最初は250ccから」と言われましたが、今のホンダ車は電子制御やABSが優秀なので、むしろ小排気量車より安全な場面も多々あります。ただし、アクセルをガバッと開ける癖だけは厳禁です。
Q: 重くて取り回しが不安です。
A: 慣れです。と言いたいところですが、腰で支えるコツがあります。私のX4(270kg超)に比べれば、CB650系は自転車のように軽いです。まずは平らな場所で押し歩きの練習をしましょう。
Q: ホンダのDCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)はどうですか?
A: 私のNC750XはDCTですが、これは「楽をするため」ではなく「走りに集中するため」の機構です。ただ、今回の投稿者様のように「クラッチ操作の妙」を楽しみたいなら、マニュアルトランスミッション(MT)こそ至高です。左手の指先で対話する感覚は、何にも代えがたい喜びですから。
新しい相棒との生活、最初は筋肉痛になるかもしれませんが、その痛みさえも愛おしくなるはずです。安全運転で、良きバイクライフを。

