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83年式CB750の不動車購入はアリか?元プロが教えるレストアの沼とHonda車の真価

こんにちは、ライターの田中 恒一です。最近はツーリング先で飲むコンビニのコーヒーが妙に美味しく感じる季節になりましたね。私の相棒であるNC750Xのメットインスペースに、お気に入りの豆を詰めたボトルを入れて走るのが週末のささやかな楽しみです。

さて、今回はネット上で話題になっていたある相談について、元バイク業界人の視点からお話ししたいと思います。その相談というのは、「亡くなった親族が所有していた1983年式のHonda CB750を購入しようか検討しているが、整備途中のまま数ヶ月放置されている。これを再始動させるのはどれくらい難しいか?」というものです。

写真を見る限り、外装の一部が外され、メンテナンスの真っ最中に時が止まってしまったような状態。この手の車両を見ると、メカニックとしての血が騒ぐと同時に、胃のあたりがキリキリと痛むのも事実です。私の愛車遍歴の中でも、30歳で乗っていたX4や、現在も手元に残しているBROSなど、少し年季の入ったHonda車たちと向き合ってきた経験から、この「80年代の名車復活」というロマンと現実について、じっくりと解説していきましょう。

結論:覚悟があれば買いだが、素人には深い沼が待っている

まず結論から申し上げますと、この車両を再び走らせることは可能です。なぜなら、腐ってもHonda、古くてもHondaだからです。Hondaのエンジニアたちが魂を込めて設計した工業製品は、そう簡単には土に還りません。しかし、もしあなたが「安く手に入るから、ちゃちゃっと直して乗ろう」と考えているなら、それは大きな間違いです。

整備途中で放置された車両というのは、通常の不動車よりもタチが悪い場合があります。前の持ち主がどこまで手を付け、どの部品をどこにしまったのかが不明だからです。これを元通りに組み上げ、さらに経年劣化した箇所を直していく作業は、まさに底なしの沼と言えるでしょう。時間と予算、そして何より折れない心が必要です。

業界視点で見る、再始動が困難な3つの理由

私が業界で25年働いてきた経験から、このCB750を復活させるにあたって特に懸念されるポイントを3つ挙げます。

1. キャブレターという精密機器の反乱

数ヶ月放置されていたとのことですが、キャブレター内のガソリンは想像以上に早く劣化します。揮発したガソリンはワニス状のネバネバした物質に変わり、ジェット類の微細な穴を詰まらせます。私が18歳で乗っていたCB250RSや、20代前半のBROSでも、冬場に乗らずに放置して始動に苦労した経験は数え切れません。

特に83年式のCB750ともなれば、4連キャブレターです。これを分解洗浄し、同調を取り直す作業は、慣れていない人にとっては苦行そのもの。現代の私の愛車、NC750Xが搭載するインジェクションシステムのありがたみを痛感する瞬間です。ボタン一つで始動する優等生ぶりは、やはり最高の性能なのです。

2. 電装系の経年劣化とブラックボックス

80年代初頭のバイクは、電装系が弱点となることが多いです。レギュレーターやイグナイターといった部品が、経年劣化で突然死することがあります。私のX4でさえ、時折電装系のトラブルには悩まされました。ましてや40年前のバイクです。配線の被覆が硬化してボロボロになっている可能性も高く、通電した瞬間にショートして煙が出る、なんてことになれば草も生えません。電気は見えないだけに、トラブルシューティングには専門的な知識とテスターを扱う技術が不可欠です。

3. 欠品部品との終わらない戦い

整備途中ということは、外された部品が箱に入っているか、あるいは紛失している可能性があります。ボルト一本、カラー一つ足りないだけで、組み上げ作業はストップします。Hondaは部品供給体制が非常に優秀なメーカーであり、その企業努力には頭が下がりますが、それでも83年式の純正部品すべてが新品で出るわけではありません。

特に外装パーツや特殊なゴム類は廃番になっていることが多く、オークションサイトを血眼になって探す日々が始まるかもしれません。これを我々の業界では「部品探しの旅に出る」と言いますが、帰ってこられない人も大勢います。

復活にかかる費用の目安

車両価格以外に、最低限走れるようにするだけでも以下の費用を覚悟しておくべきです。

自分ですべて作業を行うとしても、材料費だけで10万円近く飛んでいくことはザラです。ショップに依頼すれば、その倍以上、あるいは「作業お断り」される可能性すらあります。この金額を見て「高い」と感じるなら、現代の中古車、例えばCB400SFなどを選んだほうが幸せになれるでしょう。

現車確認時のチェックリスト

それでも、あの空冷4発のエンジンの造形美は尊いものです。どうしても購入したい場合は、以下の点を確認してください。

  1. クランキングの確認:プラグを抜いて、クランクシャフトがスムーズに回るか。固着していればエンジンOH確定です。
  2. タンク内の錆:懐中電灯で内部を照らし、赤錆が酷くないか確認。錆取り作業は地味に大変です。
  3. 欠品パーツの有無:サイドカバー、エアクリーナーボックス、特殊なボルト類が揃っているか。箱に入った部品と車体を照らし合わせるパズル能力が問われます。

よくある質問(FAQ)

Q. サービスマニュアルは必要ですか?

必須です。これなしで整備途中のバラバラなバイクを組むのは、目隠しでプラモデルを作るようなものです。英語のマニュアルでも良いので、必ず入手してください。

Q. 初心者ですが、勉強しながら直せますか?

Hondaのバイクは整備性が良く、教材としては最高です。私のスーパーカブ50もそうですが、基本に忠実な設計がなされています。ただし、ブレーキや足回りなどの重要保安部品に関しては、命に関わるためプロのチェックを受けることを強く推奨します。

Q. NC750Xと比べてどうですか?

比較してはいけません。NC750Xは現代の技術の結晶、移動の道具として完成された「あがり」のバイクです。一方、83年式CB750は、不便さや手間も含めて愛でる趣味の対象です。私は実用性のNCと、趣味性のBROSを使い分けていますが、この両輪があるからこそバイクライフは充実するのです。

最後に。Hondaというメーカーは「技術屋魂」の塊です。40年前のバイクであっても、適切な手当てを施せば、まるで時計のように正確に時を刻み始めます。その瞬間の感動は、何物にも代えがたいものです。もしあなたがその覚悟を持ってこのCB750を引き継ぐなら、私も遠くから応援しています。

それでは、また次の記事でお会いしましょう。

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