皆さん、こんにちは。モーターサイクルナビゲーターのライター、田中恒一です。最近、朝晩の冷え込みが厳しくなってきましたが、愛車の暖機運転はしっかりされていますか。私は毎朝、NC750XのDCTが奏でるスムーズな変速音を聞きながら、コーヒーを飲むのが日課になっています。さて、今回は海を越えたライダーからの相談を取り上げたいと思います。1993年式のHonda NX125に関するオイル漏れの話題です。
目次
30年前のバイクが現役で走る奇跡と現実
今回取り上げるのは、1993年製のHonda NX125についてです。投稿者によると、煙は吐かず、オイルを食っているわけでもないのに、オイルが漏れているとのこと。これを聞いて、私がまず感じたのは「さすがHondaだな」という感嘆でした。
なぜなら、製造から30年以上が経過しているにもかかわらず、エンジン内部の燃焼室周り、つまりピストンリングやバルブステムシールといった基幹部分は健全だということが読み取れるからです。私が16歳で初めて乗ったスーパーカブ50もそうでしたが、ホンダのエンジン、特にこの時代の空冷単気筒は、定期的にオイル交換さえしていれば、まず壊れません。まさに「優等生」と呼ばれる所以ですが、その優等生ぶりは30年経ってもしっかり発揮されているわけです。
しかし、金属部品は不死身でも、ゴムや紙でできたパッキン類には寿命があります。今回のケースは、まさにその寿命が訪れたというサインでしょう。
結論:エンジンは健康、外装の「服」を着替えさせよう
結論から申し上げますと、このNX125はまだまだ元気に走れます。煙を吐いていない(オイル上がり・下がりがない)という点は非常にポジティブな要素です。エンジンを開けてオーバーホールする必要はなく、外部に露出しているガスケットやオイルシールを交換するだけで、ピタリと止まる可能性が極めて高いです。
私が以前所有していたBROS(プロダクト1)でも同様の症状がありましたが、パッキン類を一新しただけで、新車のようなタイトなエンジンフィールが蘇りました。古いホンダ車は、手をかければ必ず応えてくれる。そこがたまらなく愛おしいのです。
業界視点で読み解くオイル漏れの理由3選
元業界人の視点から、この年式のホンダ車でありがちなオイル漏れの原因を3つ挙げてみます。
1. ガスケットの硬化と痩せ
まず疑うべきは、クランクケースカバーやジェネレーターカバーのガスケットです。90年代初頭のバイクでは、紙製のガスケットが使われていることが多いのですが、これが経年変化でカチカチに硬化し、さらにエンジンの熱収縮を繰り返すことで「痩せ」てしまいます。結果、合わせ面の密着力が弱まり、オイルが滲み出してくるのです。
特に空冷エンジンは温度変化が激しいので、この傾向が顕著です。私のX4のような大排気量水冷車でも熱害はありましたが、小排気量の空冷車は常に全開で走らされることが多いため、ガスケットへの負担は意外と大きいのです。ここを新品にするだけで解決することが多いですが、こびりついた古いガスケットを剥がす作業は、まさに時間と根気が必要な沼作業と言えるでしょう。
2. シフトシャフト・オイルシールの摩耗
次に怪しいのが、シフトペダルの付け根にあるオイルシールです。ここはギアチェンジのたびに動く場所なので、物理的にゴムが摩耗します。加えて、泥や砂利が噛み込みやすい場所でもあります。NX125のようなデュアルパーパスモデルなら、オフロード走行でシャフト周りに泥が付着し、それが研磨剤のようにシールを攻撃した可能性も否定できません。
ここからの漏れは、サイドスタンドをかけて駐車した際に地面にオイルの染みを作る典型的なパターンです。部品自体は数百円のゴムリングですが、交換するだけで精神衛生上が劇的に改善します。
3. ドレンボルトワッシャーの再利用
意外と多いのがこれです。前のオーナーや整備した人が、ドレンワッシャー(パッキン)を交換せずに使い回してしまったケース。アルミや銅のワッシャーは、一度潰れることで密閉する「使い捨て」部品です。これをケチると、どんなにエンジンが調子良くても下からポタポタと漏れてきます。
たかが数十円の部品をケチったがために、駐車場を汚してしまうなんて、本当に草も生えません。基本中の基本ですが、中古車を購入した際は真っ先に確認すべきポイントです。
修理費用の目安
修理にかかる費用ですが、これは「どこまでやるか」と「誰がやるか」で大きく変わります。
もしご自身で作業されるなら、ガスケットやシール類の部品代だけで済みます。おそらく数千円、高くても1万円以内でしょう。ホンダの純正部品は比較的供給が安定していますが、JD09型NX125のような希少車の場合、一部パーツが廃盤になっている可能性もあります。その場合、同系統のエンジン(XLR125RやCB125Tなど)から流用情報を探すことになりますが、そのリサーチも含めて楽しめるのが旧車乗りの特権です。
ショップに依頼する場合、工賃がメインになります。ガスケット剥がしには時間がかかるため、工賃だけで数万円になることも珍しくありません。しかし、プロの確実な作業をお金で買うと考えれば決して高くはないでしょう。
セルフチェックリスト
愛車のどこから漏れているか、以下のポイントを懐中電灯片手にチェックしてみてください。事前にパーツクリーナーでエンジン周りを綺麗にしておくと、漏れ箇所が特定しやすくなります。
- シリンダーヘッドカバーの合わせ面(エンジンのてっぺん)
- シリンダーとクランクケースのベースガスケット(エンジンの根本)
- ジェネレーターカバー(左側)とクラッチカバー(右側)の合わせ面
- シフトペダルの付け根(シャフトシール)
- ドライブスプロケットの奥(カウンターシャフトシール)
- ドレンボルト周辺
よくある質問(FAQ)
Q. オイル漏れ止め添加剤を入れてもいいですか?
一時的な処置としては有効ですが、あくまで応急処置と考えてください。硬化したゴムを膨潤させて漏れを止める仕組みのものが多いですが、30年前のシールが完全に割れているような場合は効果が薄いです。根本解決には部品交換しかありません。
Q. 少し漏れる程度なら乗り続けても大丈夫?
オイルレベルゲージで規定量を保てているなら、直ちにエンジンが壊れることはありません。しかし、漏れたオイルがリアタイヤに付着すると、転倒のリスクが一気に高まります。また、駐車場を汚して家族や近隣トラブルになるのも避けたいところ。早めの修理をお勧めします。
Q. 部品が見つからない場合はどうすれば?
純正品番で検索しても出ない場合、海外サイト(CMSNLなど)や、サイズを測って汎用のオイルシールを探すことになります。古いホンダ車を維持するためには、時には探偵のようなリサーチ力も必要です。苦労して見つけた新品パーツが届いた時の喜びは、何物にも代えがたい尊い瞬間ですよ。
私も現在、NC750X、スーパーカブ、そしてBROSの3台体制でバイクライフを楽しんでいますが、やはりホンダ車の「基本設計の良さ」には毎回驚かされます。今回のNX125も、適切なメンテナンスをしてあげれば、あと10年、20年と走り続けるポテンシャルを秘めています。「技術屋魂」で作られたホンダのバイクを、ぜひ大切に乗り続けてあげてください。

