
最近、休日に愛車のNC750Xを洗車していたら、ホイールのスポークを磨くだけで1時間が経過していました。これだからバイク乗りというのは、端から見れば奇妙な生き物なのかもしれませんね。こんにちは、モーターサイクルナビゲーターの田中 恒一です。

さて、今回は非常に興味深い相談、というより「極上の出物」についての話題が入ってきました。テーマは「走行6万kmのホンダCBR600RR(PC37)は買いか?」というもの。私の元業界人としての経験、そして何より骨の髄までホンダ党である私の視点から、この個体をジャッジさせていただきます。
まず結論から申し上げましょう。
目次
結論:このPC37は「即決レベル」の優良物件です
「6万km」という数字を見て、多くのライダーは躊躇するかもしれません。しかし、私たちプロの目線、特にホンダの技術力を知る人間からすれば、この距離は適切なメンテナンスさえされていれば「慣らし運転が終わって脂が乗ってきた」段階に過ぎません。提示されている3,600ユーロ(日本円換算で約58万円前後)という価格設定も、昨今の高騰する中古車市場、いわゆる旧車沼の状況を鑑みれば極めて良心的です。なぜ私がここまで太鼓判を押すのか、その理由を私の愛車遍歴と絡めながら解説します。
理由1:5万km時のバルブクリアランス調整という「愛の証」
この車両情報の最大のポイントは、「5万km時にバルブクリアランス調整済み」という記述です。これは本当に尊い事実です。
私がかつて乗っていたST1300パンヨーロピアンもそうでしたが、ホンダのエンジンは堅牢そのもの。しかし、V4や直4エンジンのバルブクリアランス調整は、整備士にとっても非常に手間の掛かる、工賃のかさむ作業です。多くのオーナーはここを先延ばしにしがちです。それをしっかりと実施している前オーナーは、間違いなくこのバイクを大切に扱っていた「本物のライダー」です。
正直、この整備履歴があるだけで、エンジンの健康状態は保証されたようなもの。私の手元にあるBROSも30年以上前のバイクですが、基本的な整備さえしていればホンダのエンジンは永遠に回り続けるのではないかと錯覚するほどです。6万kmという数字に惑わされてはいけません。中身はそこらへんの放置された1万km車両より遥かに上質でしょう。
理由2:実戦的なカスタムと「優等生」のポテンシャル
カスタム内容を見て、思わずニヤリとしてしまいました。メッシュホース、マグラのマスターシリンダー、大径ディスク、クイックシフター。これは「盆栽(飾って楽しむこと)」ではなく、走るために組まれた仕様です。
私は若い頃、X4というドラッグマシンのようなバイクで豪快な加速を楽しんでいましたが、CBR600RR(PC37)はそれとは対極にある「操る楽しさ」の権化です。PC37はMotoGPマシンRC211Vの血を引くセンターアップマフラーが特徴のモデル。ホンダはよく優等生でつまらないと言われますが、それは大きな間違いです。
誰が乗っても速く、壊れず、意図した通りに動く。この「当たり前」を20年前のバイクが高い次元で実現していること自体が、実はとんでもない技術力の証明なのです。優等生であることが、実は最高の性能である。このPC37は、その哲学を体現しています。さらに足回りが強化されているとなれば、ワインディングやサーキット走行会でも、現行車をカモれるポテンシャルを秘めています。まさに草不可避な速さを発揮するでしょう。
理由3:ホンダの塗装と樹脂パーツの耐久性
「ガレージ保管」という点も見逃せません。私が現在乗っているNC750Xもそうですが、ホンダの塗装品質と樹脂パーツの耐久性は世界一だと私は確信しています。それでも、20年という歳月は紫外線との戦いです。
屋内保管されていた赤/黒(あるいはトリコロールでしょうか)のカウルは、恐らく年式を感じさせない艶を保っているはずです。イタリアやドイツのメーカーも素晴らしいですが、20年落ちの車両でゴム類や樹脂が生きていて、電装系がご機嫌に動く確率が最も高いのは、やはりホンダです。これは信仰ではなく、私が業界で何千台ものバイクを見てきた統計的な事実です。
購入後の想定費用と維持の目安
車両価格以外に見ておくべき費用感です。
- サスペンションのオーバーホール:約5〜8万円(6万km無交換なら必須)
- カムチェーンテンショナー交換:約1.5万円(ホンダ高回転エンジンの持病が出やすい箇所)
- ステムベアリングの打ち替え:約3〜4万円(大径ディスクによる負荷を考慮)
これらを加味しても、トータルバランスで見れば非常にお買い得です。
現車確認チェックリスト
もし実車を見に行けるなら、以下の点を重点的にチェックしてください。
- 冷間時の始動直後、エンジン右側から「カチャカチャ」という異音(カムチェーン音)が大きくないか。
- ハンドルのストッパー部分に大きな打痕や凹みがないか(サーキット走行での転倒歴の確認)。
- レギュレーターの充電電圧(PC37世代はここが唯一の弱点と言ってもいい)。
よくある質問(FAQ)
Q:6万kmのSS(スーパースポーツ)なんて、エンジンがスカスカでは?
A:いいえ。ホンダの、特にCBR系のエンジンは定期的なオイル交換さえしていれば、10万kmでも圧縮は落ちません。むしろ当たりがついてスムーズです。
Q:PC37は今のバイクと比べて乗りにくいですか?
A:電子制御満載の現代車に比べれば「素」の操作感を求められます。ABSもない(この個体は恐らく無し)ため、ブレーキ操作はライダーの腕次第。ですが、それが最高に楽しいのです。
Q:部品供給は大丈夫ですか?
A:機能部品に関しては、さすが世界のホンダ、まだなんとかなります。ただし、カウルなどの外装パーツは廃盤が増えています。立ちゴケには注意してください。外装を割ると、修理パーツを探すオークション沼にハマることになります。
このPC37は、ホンダの「技術屋魂」が色濃く残る名車です。私なら、迷わず契約書にハンコを押しますね。あなたのバイクライフが、この素晴らしい相棒と共に充実したものになることを願っています。








