
朝晩の冷え込みが厳しくなってきましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。これからの季節、ツーリング先で自販機の「あったか〜い」缶コーヒーを握りしめる瞬間が何よりの幸せだったりしますよね。田中 恒一です。

さて、今回取り上げる話題は、海外で見つかった「謎のホンダCB450」についてです。投稿者の方は、地元の交通局が放出したという、走行距離が少なくコンディション抜群のCB450を見つけたとのこと。しかし、角型のヘッドライトやメーター周りが、ネットで見る一般的な「CB450SC(ナイトホーク)」とは異なっているため、戸惑っているようです。価格は1600ドル(約24万円前後)。果たしてこれは買いなのか?
私の25年にわたる業界経験と、16歳からホンダ車と共に歩んできた人生を賭けて、この「働くバイク」の正体と魅力に迫りたいと思います。
目次
結論:迷わず確保すべき「尊い」一台です
まず結論から申し上げますと、その車両の状態が「ミントコンディション(極上)」であるならば、1600ドルという価格は破格です。即決案件と言っても過言ではありません。
この車両、おそらく投稿者さんが見ているのは、北米仕様のCB450SCナイトホークをベースにしつつ、警察や交通局向けに特装された「ポリス仕様(P仕様)」、もしくは輸出向けに実用性を強化した「CB450DX」などの派生モデルの可能性が高いです。角目のヘッドライトや四角いメータークラスターは、80年代のホンダの実用車やスポーツモデル(CB125Tや初期のVTシリーズなど)で多用されたデザイン言語そのものです。
私が現在所有しているNC750Xも「実用性の塊」のようなバイクですが、この時代のホンダの実用車は、まさに今のホンダの礎を築いた「走る産業遺産」です。手に入れない理由がありません。
業界視点で見る「買い」の理由
1. 公用車仕様という「最強の血統」
「Government issue(官公庁払い下げ)」という言葉に、私は強烈に惹かれます。なぜなら、警察や交通局で採用されるバイクには、絶対的な条件があるからです。それは「壊れないこと」と「扱いやすいこと」。
私がかつて乗っていたX4のような大排気量車は、パワーこそ正義でしたが、日常の業務で使われるバイクに求められるのは、過酷な使用に耐えうる耐久性です。このCB450に搭載されているであろう空冷並列2気筒エンジン(おそらくSOHC 3バルブのホーク系譜)は、ホンダの中でも傑作中の傑作です。私が18歳で乗っていたCB250RSの単気筒エンジンの軽快さとも違いますが、この時代のホンダツインは、オイル交換さえしていれば地球が滅びるまで走り続けるんじゃないかと思わせるほどのタフさがあります。
公用車として採用されたということは、メーカーが威信をかけて整備性を高め、耐久テストをクリアした証拠。いわば、エリート中のエリート優等生なのです。
2. 80年代ホンダ特有の「角目」デザインの沼
投稿者は角型のヘッドライトに違和感を持っているようですが、私からすれば、これこそが「尊い」ポイントです。80年代、バイクのデザインは丸みのある造形から、直線基調のシャープなデザインへと移行していました。私が20歳の頃に乗っていたCB-1はネイキッドブームの先駆けでしたが、その少し前の世代であるこの角目スタイルは、機能美の象徴です。
特に公用車仕様では、視認性や補修部品の共通化(当時の四輪や他の商用バイクとの兼ね合い)などの理由で、あえて装飾を排した角型パーツが採用されることがありました。華美な装飾を削ぎ落とし、機能に徹したその姿。それはまさに、私が愛してやまない「スーパーカブ」に通じる哲学です。一見地味に見えますが、見れば見るほど味わい深い、まさに「沼」のような魅力がそこにはあります。
3. ホンダの「技術屋魂」が詰まった乗り味
私は現在、NC750XのDCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)に乗っており、その安楽さと効率の良さに感動していますが、同時にガレージにはBROSという少し癖のあるVツインも置いています。なぜなら、ホンダのバイクには、時代ごとの「技術屋の主張」があるからです。
このCB450には、DCTのようなハイテクはありません。しかし、アクセルを開けた瞬間に路面を掴むトラクション、実用域で最もトルクが出るようにセッティングされたエンジン特性など、ライダーを疲れさせないための工夫が随所に詰まっているはずです。「優等生すぎてつまらない」と揶揄されることも多いホンダ車ですが、プロの視点で見れば「誰もが安全に、確実に目的地にたどり着ける」ことこそが最高の性能なのです。
1600ドルでこの「ホンダの良心」を味わえるのであれば、安すぎて逆に「草」が生えるレベルです。
乗り出し費用の目安と現実
車両価格が1600ドル(約24万円)と安価ですが、古いバイク、特に払い下げ車両に乗るにはそれなりの覚悟と追加費用が必要です。私がBROSを維持している経験から、最低限見ておくべきコストを算出します。
- 車両本体:$1,600
- タイヤ前後交換(経年劣化しているはず):$300〜$400
- キャブレターのオーバーホール(必須):$200〜$300(部品代含む、DIYならもっと安い)
- バッテリー・油脂類全交換:$150
- その他ゴムパーツ類の交換:$100
合計で約2,400ドル(約36万円)程度を見ておけば、安心してツーリングに出かけられる状態になるでしょう。現代の新車を買うことを考えれば、十分にリーズナブルです。
購入時のチェックリスト
実車を確認する際は、以下のポイントを重点的にチェックしてください。元業界人の視点です。
タンク内部の錆
これは絶対に避けて通れません。長期間保管されていた車両は、ガソリンが腐敗しタンク内が錆びている可能性が高いです。キャップを開けて懐中電灯で照らし、奥まで確認してください。軽い錆なら「花咲かG」などのケミカルで落ちますが、穴が開くほどだと厄介です。
レギュレーターと電装系
80年代〜90年代のホンダ車における唯一のアキレス腱、それがレギュレーターです。充電電圧が安定しない個体が多いので、購入後は対策品への交換を強く推奨します。ここさえ押さえれば、あとは無敵です。
公用車特有の装備跡
無線機やサイレンなどが取り付けられていた場合、配線が加工されていることがあります。メインハーネスがズタズタになっていないか、シート下やヘッドライトケース内を確認しましょう。
よくある質問(FAQ)
Q: 部品は手に入りますか?
A: エンジン関係はCB450SCナイトホークや、兄弟車のCM400/450系と共通部品が多いため、eBayなどで比較的容易に入手可能です。外装(特に角目のライト周りやメーター)は専用品の可能性が高いので、立ちゴケには注意が必要です。ホンダの部品供給網は優秀ですが、40年前のモデルとなると、ある程度の「流用テクニック」は必要になります。
Q: 現代の交通事情でも走れますか?
A: 全く問題ありません。450ccあれば高速道路の巡航も余裕です。私が乗っていたST1300パン・ヨーロピアンのような超高速ツアラーではありませんが、法定速度+αでの移動は快適そのものです。むしろ、低速トルクがあるので街乗りは現行の400ccスポーツより楽かもしれません。
Q: 初めての旧車としておすすめですか?
A: おすすめです。カワサキの空冷4発のようなプレミア価格もついておらず、構造もシンプルで頑丈。ホンダの「優等生」ぶりは旧車になっても健在です。自分でメンテナンスを覚える教材としても最適でしょう。
最後に。このCB450は、一見すると地味な「お役所バイク」に見えるかもしれません。しかし、その中身には世界を席巻したホンダのエンジニアリング魂が詰まっています。もし購入されたら、ぜひ大切に乗ってあげてください。私も機会があれば、NC750Xを停めて、その角ばったメーターを眺めながら缶コーヒーをご一緒したいものです。









