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最近はガレージでコーヒーを淹れる時間が増えてきましたね。
こんにちは、モーターサイクルナビゲーターの田中恒一です。
週末の朝、まだ冷え切った空気の中で愛車のNC750Xのカバーを外す瞬間、なんとも言えない高揚感がありますよね。さて、今回は非常に興味深いトピックを目にしました。1982年式の「Honda CB650SC Nighthawk」を、なんと初めてのバイクとして購入し、レストアに挑戦するという勇気ある投稿です。「フレームは切らない」「OEM(純正)にはこだわらないが、自分だけの一台にする」という宣言に、私の技術屋としての血が騒ぎました。
私もかつて業界で25年ほど油にまみれていましたが、初めてのバイクに40年前の旧車を選ぶその度胸、まさに「尊い」の一言に尽きます。私の手元にも、バブルの香りが残るBROSがありますが、古いホンダ車を維持することは、単なる修理ではなく、当時の技術者との対話なんですよね。
今日はこのCB650SCのレストアプロジェクトを題材に、なぜホンダの旧車がこれほどまでに愛されるのか、そして素人が手を出す際の「沼」の深さについて、プロの視点から解説していきましょう。
結論:ホンダの旧車再生は、技術者魂への敬意と覚悟の証である
まず結論から申し上げますと、この1982年式ナイトホークのレストアは、苦難の道でありながらも、最高に贅沢な学習教材になるでしょう。なぜなら、この時代のホンダ車は「優等生」と揶揄されることがありますが、その裏には「誰が乗っても、誰が整備しても、ある程度の水準を保てる」という、狂気じみた設計思想が隠されているからです。
私も16歳でスーパーカブ50をバラした時に感じましたが、ホンダの設計には「優しさ」があります。ボルト一本の位置、配線の取り回しに論理的な理由があるのです。投稿者が「フレームを切らない」と判断したのは大正解です。メーカーが莫大な開発費を投じて計算し尽くしたフレーム剛性を、素人が見た目だけで弄るのは、走る実験室を作るようなもの。それを理解している点で、このビルダーには見込みがあると感じました。
理由1:80年代ホンダ車の「過剰品質」という名の遺産
私がかつて所有していたCB-1やCB250RSもそうでしたが、80年代のホンダ車は、良い意味でコストのかけ方がおかしいのです。このCB650SCも、空冷4気筒エンジンの造形美や、SOHCながら高回転まで回る精緻な作りは、今のバイクにはない味があります。
特にCB650SCは、アメリカンクルーザーとスポーツバイクの過渡期にあるような独特なスタイリング(和製アメリカン)が特徴です。この時代のパーツは、磨けば光る素材がふんだんに使われています。樹脂パーツですら、今のものより肉厚だったりします。私がBROSを未だに手放せないのも、この「モノとしての質感の高さ」に魅了されているからに他なりません。40年経っても直せば走る。これこそが、私が信じてやまないホンダの耐久性への絶対的信頼です。
理由2:4連キャブレターという名の「底なし沼」
しかし、手放しで応援できない部分もあります。それは、4気筒エンジンのキャブレター調整です。投稿者は「ストリップダウンした」と言っていますが、ここからが本当の「沼」の入り口です。
私がX4に乗っていた頃、大排気量ゆえの豪快なトルクに酔いしれていましたが、その巨体を支える吸気系の同調には神経を使いました。CB650SCのような古い4気筒は、4つのキャブレターの同調を取るのが素人には至難の業です。二次エアの吸い込み、ダイヤフラムの劣化、ジェット類の詰まり。一つ直せばまた一つ不具合が出る。まさにモグラ叩き状態で、正直「草」も生えない状況に陥ることが多々あります。
それでも、エンジンが4気筒綺麗に爆発した時のサウンドと振動の無さは、今のインジェクション車であるNC750Xにはない、機械仕掛けの感動があります。この苦労を乗り越えた時、彼は真のホンダ乗りになるのでしょう。
理由3:純正至上主義ではない「自分仕様」の美学
「OEM(純正)にはしないが、俺のバイクにする」という言葉、私は好きです。私の現在のメイン機であるNC750Xも、実用性を重視してDCTモデルを選び、ロングスクリーンやパニアケースで旅仕様にしていますが、これも一つのカスタムです。
レストアにおいて純正部品が出ないことは、旧車維持の最大の壁です。特に外装や電装系は絶望的でしょう。そこで諦めるのではなく、流用やワンオフ作成で乗り切る。そこには、メーカーが想定した「優等生」の枠を超えた、オーナーだけの物語が生まれます。安全に関わる部分はホンダの設計を尊重しつつ、見た目や快適性は自分好みにする。これは、長くバイクと付き合うための秘訣だと、私の30年以上のバイク歴から断言できます。
レストアにかかる費用の目安(概算)
さて、夢の話だけでなく現実的な数字の話もしておきましょう。車両本体以外にかかる費用は、決して安くありません。
タイヤ前後交換:約35,000円〜
バッテリー・油脂類・プラグ:約15,000円〜
キャブレターオーバーホールキット(4気筒分):約20,000円〜
フロントフォークシール・オイル類:約10,000円〜
ブレーキ周り(ホース・パッド・フルード):約25,000円〜
タンク錆取りケミカル等:約5,000円〜
その他工具・ケミカル類:約20,000円〜
最低限走るようにするだけでも、部品代だけで13万円以上は覚悟が必要です。ここにプロに依頼する工賃や、予期せぬトラブル(電装系の死など)を含めると、あっという間に20万、30万のコースです。「沼」とはよく言ったもので、足を踏み入れたら最後、完成するまで金銭感覚が麻痺していきます。
レストア開始前のチェックリスト
これからレストアを始める、あるいは興味がある方へ、元プロとして最低限確認すべきポイントを挙げておきます。
燃料タンクの内部:
錆が酷すぎると、穴が開いて使い物になりません。フィルターを付けても微細な錆がキャブを詰まらせます。
充電電圧(レギュレーター・ジェネレーター):
80年代ホンダ車のウィークポイントです。エンジンがかかっても充電されず、出先で止まるのは「お約束」です。
インシュレーター(キャブとエンジンの間のゴム):
ここが硬化してひび割れていると、二次エアを吸ってまともにアイドリングしません。新品が出るか、流用可能か要確認です。
ブレーキキャリパーのピストン:
固着している場合、ピストンが抜けないだけで数日を費やすことになります。
よくある質問(FAQ)
Q:初心者ですが、古いホンダ車のレストアは可能ですか?
A:根気と場所、そしてある程度の予算があれば可能です。ホンダ車は整備性が比較的良く、マニュアルも入手しやすい傾向にあります。ただし、決して楽な道ではありません。
Q:部品が見つからない時はどうすればいいですか?
A:eBayやYahoo!オークション、海外のホンダパーツ専門店(CMSNLなど)を駆使してください。品番検索は必須スキルです。純正が出なければ、流用情報を探すネットサーフィンの旅が始まります。
Q:なぜ、わざわざ古いCB650SCなんですか?
A:そこにバイクがあるからです。というのは冗談ですが、今のバイクにはない空冷フィンの美しさや、鉄とアルミの塊感に惹かれるのでしょう。NC750Xのような現代のバイクは完成されすぎていますが、旧車には「育てていく」楽しみがあります。
最後に、このビルダーの成功を心から祈っています。完成したあかつきには、ぜひホンダの翼を羽ばたかせて走ってほしいものです。それでは、また次回の記事でお会いしましょう。