H2のイメージは刀から?バイクデザインとコンセプトの意外な裏側
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バイクデザインの裏側、興味ないですか?

この稿を書いているのは、ちょうど来月の東京モーターショーを目前に控えた9月末。

バイクメディアの新車予想もいつにも増して盛んになっていますね。

御多分に漏れずモーターサイクルナビゲーターの中でも、ある程度最近の動向をつかみながら、大胆な予想をしてきました。

そうこうしているうちに、すでにいくつかのティーザー映像の公開や、実車映像なども出てきましたね。

とにかく、

「次に出る新車がどんな形になるのか」

というのは、皆さんが非常にワクワクするところだと思います。

しかし、

「どうやってバイクの形が決まっていくのか?」

これってそれ以上に興味がありませんか?

今回私は、2019年9月20日に山梨県・甲府で行われた、「バイクラブフォーラムinやまなし」(以下BLF)に参加してきました。

BLFは、バイク業界はもちろん、バイクに関わる省庁の担当部局のトップが集まり、毎年の現状の把握から今後に向けた様々な提言を行う、バイク界にとっては大変重要なフォーラム。

今年の山梨大会ではバイクデザイナーによるパネルディスカッションが行われ、バイクデザインにまつわるとても貴重なお話をいろいろと聞くことができましたよ。

というわけでこの稿では、BLFのトークセッションの中からその辺のお話を抜粋してお伝えしてまいります。

バイクデザイナーがトークセッション

「BLF in やまなし」の壇上では、二輪事業本部デザイン開発部 技術主事でデザイナーの澤田琢磨さんと、


澤田琢磨さん

川崎重工株式会社 モーターサイクル&エンジンカンパニー 技術本部デザイン部 部長の福本圭志さんとのトーク対談が行われました。


福本圭志さん

こうして会社の違うデザイナーさん同士が公開の場でトーク対談をするというのは凄くまれなことですよね。

さぞかしお互いライバルとしてピリピリとした雰囲気になるかと思いきや…?

お二人は日ごろから仲が良く、今回もお二人で奥多摩や山梨の温泉によって会場に来られたのだとか。

澤田さんのお話によると、車のデザイナーは全世界に約5万人くらいいるそうですが、バイクのデザイナーは600人程度。

そのうち半数は日本人デザイナーで意外に横のつながりがあり、普段からよく交流をしているのだそうです。

澤田さんはこれまで、VTR250やFTRさらにはCBR400RRやエイプなど、ホンダのヒット作を数多く手掛けられてこられたデザイナー。


澤田さんの作品群↑

一方、福本さんはZX-9やXanthus(ザンザス)、Ninja H2Rなどを手掛けられ、バイクのほかにもKawasakiの高速実験船のデザインなども担当された方です。


福本さんの作品群↑

会場では彼らの作品群が映し出されたわけですが、どれも見覚えのあるものばかり。

そんな実績あるデザイナー2人のトークセッションの最初は「デザインの定義とは」というテーマからスタートします。

バイクデザイナーが語るデザインの定義とは

このセッションで女子ライダー代表を務めた原型師、美環(みかん)さんからの

美環さん

美環;例えば、こんな風に乗ってほしいなとイメージしてデザインされたりするんですか?

という問いに澤田さんは、

澤田さん;はい、そうですね、それはあります。

ただ、ものの形だけではなくてコンセプトを立てることが一番大切なんですね。

例えば、「APE(エイプ)」では形だけでなくネーミングも考えていますから。

あれでいうと、ホンダにはエンジンが横にに寝ているンキーやゴリラといった商品があるのですが、エイプでは直立エンジンを使いました。

直立エンジン=直立猿人ということになって、「APE」となったんですよ。(笑)

それから、FTRはトラックレーサーをイメージしたバイクですが、カタログでは渋谷にいるような若者に乗ってほしくて、、渋谷の交差点を背景にしてみました。

あれはメーカー同士の開発競争もし烈を極めた80-90年代、

「どうやら原宿あたりで、実に力の抜けたバイクの乗り方が流行っているらしい」

という話を聞きつけて、会社にもいかずにずっと原宿に通い詰めていたことがあるんです。

彼らのバイクを見ていくと、およそ速さを求めるものではなく、モノによってはかえって乗りにくくなるような改造も見られましたね。

しかし、それらを否定するよりむしろ、メーカーとは違った物差しで、新しい価値観を求めている人の姿があるということに興味がわきました。

そうして創っていったのが「FTR」なんです。

一般にデザインとは絵に描いたものにスタイリングを施すのが仕事だと思われがちなのですが解決しなければならない課題をどういう形で実現するかを考えるのがデザインなんです。

福本さん;「新しさ」というのは常に求められるものですが、実はデザインというのは今まであったものと全く新しいものの融合でできているんです。

バイクの場合は特にそうでして、タイヤが2本あって、エンジンがあってハンドルなど、バイクにはどうしても変えられないことがあります。

なのでそれをどうやって新しく見せていくかがデザイナーの仕事。

できないというと「器が小さい」と言われてしまいます。

そのために、街中を歩いているときも常に風景の中から形や色など、人々に受け入れられているものがあればそれをバイクのデザインに活かしていくようにしていますね。

つまり感性の引き出しを常に多く保つというのも仕事の一つといえるでしょう。

時代の流れをつかむ難しさ

司会を務めるオートバイ誌の松下編集長から、

松下編集長 ※写真は昨年一関大会の時のものです。

とすると、あのザンザスはどこからイメージが出てきたんですか?(笑)

と福本さんに質問が飛びます。

「笑うとこじゃないですよ」といいながら福本さんは、

福本さん;あの当時Kawasakiではレーサーブームを打ち破るようにしてゼファー400がデビューし、おかげさまで大ヒットとなりました。

Kawasakiの寮にエアコンが付いて、「もう冷蔵庫を開けっぱなしにして寝なくて済む」と喜んでいたんですよ。

そんな時、会社から「ゼファーと対極のものを造れ」という話がありました。

そこで、エンジンは空冷を水冷に、フレームは鉄ならアルミに、ライトも1灯なら2灯、マフラーも1本なら2本というように、意地になって真逆の方向で造ったんです。

その結果は皆さんご存じのように…。

コケました。(笑)

ただですね、今でこそスーパーネイキッドというカテゴリーがありますが、自分としてはこれがその走りになったというか、時代に対して早すぎたバイクだったのかな?という気がしますね。

ザンザスに関して言えば、僕の今までやった中で一番好きなモデルで、愛を感じます。

やはり繰り返していく時代の流れなどを見ながら、これからのデザインに活かしていくのも重要なのだと思いますね。

その話に澤田さんは、

澤田さん;90年代初頭まで「レプリカ時代」と言われていた中で、

「レプリカの次はなんだ?」

という話になり、ホンダでは「CB-1」を造ったのですが、ゼファーに全部持っていかれて思いましたね、「違ったんだな」と。

そのあとにザンザスが出てきて…。

松下編集長;「違ったんだな」と?(笑)

いやビビりましたよ。

福本さん;当時ゼファーを出すときも、「こんなもの誰が買うんだよ」という話もありましたが結局はヒットしました。

ならば、必ず対極のものを求める人がいるだろうということで、「ニューマッハウェイブ」というコンセプトを打ち出して、「とにかく早いネイキッドを」と造ったのがザンザスです。

確かに750㏄に迫る加速をしていましたからね。

松下編集長;「そうするとレプリカの方面に戻ってしまわないですか?」

いや、それが時代のサイクルなんです。

しかし、水冷で飛び切り速いネイキットを造っていったのですが、空冷のゼファーの方が受けたので、

「そっちなんだなと…。」

以降速いモデルを作ってもうまくいきませんでしたね。

松下編集長;「それはユーザーさんを見つつも時代の流れの中でユーザーさんに変化があったということですかね?」

澤田さん;それは時代を行き過ぎると失敗するというか、(ユーザーさんについて)わかった気になってしまうときがよくないですよね。

それは僕もありますね。

松下編集長;自分の編集という仕事をしていますが、長くやっているとなんとなく「それってそんなもんだよ」と思って、分かった気になる時ってあるのかもしれませんね。

刀からNinja H2 ?

松下編集長;ところで、美環ちゃんは原型師なので、それこそ絵に描いてあるものを3Dにするわけですが、そういう時にデザインというか、ものを造るときにどういう思いで造るんですか?

美環さん;私は美少女フィギュアを造るのですが、ここの関節はこうは動かないとか、人体をしっかりと知っていないといけないんです。

またイラストではできるけど3Dにはできない髪型というのもあって、そういうものは妥協点を見つけながら造っていくんですよ。

松下編集長;そういう人の目からバイクってどう見えますか?

美環さん;そうですね、例えばホンダのNM-4-02とか、


KawasakiのNinjaH2Rなんかすごく好きですね。

なんか中2心をくすぐられるんですよ。(笑)

例えばH2Rではカーボンが多用されていたり、質感へのこだわりが凄いなと思うんですが、ああいった発想はどこから来ているんですか?

福本さん;ありがとうございます。

H2Rは私が担当したものですが、これはとにかく今までのどんなカテゴリーにも属さない「カテゴリーバスター」というコンセプトを立てました。

その中で、デザインテーマを決めるときに「速そうな」とか「流れるような」とかキーワードを創るのですが、どうしてもそれでは納まりきらなくなってきたんです。

それが「勝つか負けるか」というか「生きるか死ぬか」みたいなところまでのイメージに膨らんでいって、現場はとにかく生きた心地もしないほど張り詰めていましたね。

そして、ついにはけん銃であるとか兵器を見たいということになったわけです。

さすがにそれらはかなわず、ならば日本刀はどうかということで、実際に岡山の刀鍛冶のところにデザインチームを引き連れて行って、無理を言って刀の製造工程を見学させていただいたんですよ。

玉鋼から1本の刀を仕上げていく刀工の執念が自分たちと共鳴するところがあり、結果として実にシャープなデザインと切れ味のある性能となって、H2Rのデザインに活かされたわけです。

美環さん;へぇ、じゃああれは刀から来ているんですね?

いや、言葉ではなく、イメージですよ。

松下編集長;そうですよね言葉にしちゃうと別のメーカーさんのものになりますよね。(笑)

令和に時代のバイクデザイン

このトークセッションは「新時代令和 これからのバイクデザイン」というテーマで締めくくられました。

その中でお二人は、

澤田さん;業界では動力を電気にするという流れがあり、新しいものを創っていかないといけない中で、そういう話にやや壁壁しているところがあります。

それでも、バイクの楽しさというのは今後も残していかないといけないと思いますし、こんなに楽しいものが生き残らないはずがないと思っています。

福本さん;澤田さんがおっしゃるようにEV化の波というのは避けて通れませんし、デザインにも根深く影響していくのだと思います。

一方で、弊社のZ900RSに代表されるような「ストーリー性」など「趣味に特化されたところ」、「アナログな部分」というのは、今後さらに愛好されていくのではないかと思います。

なので、そうしたところを掘り下げながら、さらに個性を追求していくのが、令和のバイクデザインだと思いますね。

ゼファーには確か「Story in the  wind」というコピーが付いていたと記憶しています。

福本さんが最後に語った「ストーリー性」というのはバイクのデザインを非常によく象徴している言葉ですね。

さらに言えばバイクのデザインというのは、時代に対する提案であったり、時に時代に求められることへの回答であったりもするわけです。

今回のBLFに参加したことで、バイクの見方がより深くなった気がしました。

これからもさらにバイクを見ながらワクワクしたいと思います。




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