
こんにちは、田中恒一です。最近は週末のたびに天気予報と睨めっこする日々が続いていますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。愛車のチェーンを磨きながら飲むコーヒーが、何よりも美味しく感じる季節ですね。

さて、今回は非常に興味深い、そして私の「Honda党」としての血が騒ぐ相談が舞い込んできました。「1968年製のHonda CD175、2400ドル(約36〜38万円)で買うべきか?」というものです。
1968年といえば、CB750Fourが登場する前夜。ホンダが世界を席巻しつつあった、まさに黄金時代の空気が詰まった一台です。私のバイク人生の原点であるスーパーカブ50、そして現在所有しているBROSにも通じる「ホンダの実用車哲学」が色濃く反映されたこのモデル。
元バイク業界で25年飯を食い、現在はNC750Xという「現代の最高の実用車」に行き着いた私の視点から、この決断を後押し、あるいは引き留めるためのアドバイスを送ります。
目次
結論:覚悟があるなら「買い」だが、日常の足には不向き
まず結論から申し上げますと、あなたが「旧車という名の沼」に飛び込む覚悟があり、かつホンダの歴史的遺産を保存したいという情熱があるなら、2400ドルは決して高くありません。しかし、通勤や通学でサラッと乗りたいと考えているなら、悪いことは言いません。やめておきましょう。
その理由を、業界視点と私の経験を交えて3つのポイントで解説します。
理由1:現代車とは比較にならない「維持の難易度」
私は現在、NC750X、スーパーカブ50、そしてBROSの3台を所有しています。BROSもすでに30年以上前のバイクで、部品供給には苦労していますが、1968年のCD175はその比ではありません。
CD175は、ビジネスバイクとしての耐久性は折り紙付きです。当時のホンダの鋳造技術や金属加工は、まさに採算度外視で尊いレベルの品質でした。しかし、ゴムパーツや電装系は半世紀という時間の流れには逆らえません。特にこの時代のバイクは6ボルト電装であることが多く、現代の交通事情(常時点灯や明るいライトが必要な環境)では不安が残ります。
「ホンダだから壊れない」というのは、「適切なメンテナンスを続けていれば」という前提条件がつきます。25年業界にいて痛感しましたが、どんな名車も放置されればただの鉄屑です。ご自身で配線図を引いたり、海外からパーツを取り寄せる英語力と根気がないと、維持は厳しいでしょう。
理由2:2400ドルという価格の妥当性
2400ドルという価格設定ですが、車両の状態(コンディション)に全てがかかっています。もし、エンジンが実動で、タンク内の錆もなく、クロームメッキが輝いている「ミントコンディション」であれば、この価格はバーゲンセールです。即決しても良いでしょう。
しかし、不動車であったり、欠品が多数ある場合は話が別です。そこから走れるようにするまでに、さらに同額以上の投資が必要になることも珍しくありません。正直なところ、ボロボロの状態でこの価格なら草が生えるレベルの高値掴みと言わざるを得ません。
私の愛車X4もそうでしたが、大排気量車や人気絶版車ならリセールバリューがつきます。しかしCD175は玄人好みの実用車。投資対象として見るのではなく、純粋な愛で乗るバイクです。
理由3:乗って感じる「技術屋魂」の重み
それでも私がこのバイクに惹かれるのは、そこにホンダ創業者や当時の技術者たちの「魂」があるからです。CD175の並列2気筒エンジンは、実用車でありながら高回転までスムーズに回り、独特のサウンドを奏でます。
私が以前乗っていたCB-1や現在のNC750Xにも通じる、「優等生」としての資質はこの時代から確立されていました。誰が乗っても扱いやすく、頑丈。この設計思想に触れられることこそ、プライスレスな価値です。16歳でカブに乗って以来、私がホンダから離れられない理由がここにあります。
購入後の想定費用(沼の深さ)
購入を決断した場合、車両価格以外にかかる費用の目安をざっくりと提示しておきます。業界の相場感として参考にしてください。
- タイヤ前後交換:約200〜300ドル(サイズが特殊な場合あり)
- キャブレターオーバーホールキット:約100ドル
- バッテリー(6V)交換:約50ドル
- 油脂類・消耗品一式:約150ドル
- 予期せぬトラブル対応費:プライスレス(無限大)
最低でも車両価格+500〜1000ドルは予備費として持っておくのが、大人の嗜みです。
現車確認チェックリスト
もし実車を見に行けるのであれば、以下のポイントを必ず確認してください。
- ガソリンタンクの中身:錆で茶色くなっていませんか?コーティングで誤魔化されていませんか?
- キックの圧縮:手で押し下げた時、しっかりとした反発がありますか?スカスカならエンジンを開ける覚悟が必要です。
- マフラーの穴:当時のマフラーは貴重です。腐食で穴が開いていないか、底面をチェックしてください。
- 書類の整合性:フレーム番号とエンジン番号が、登録書類と一致しているか。これが合わないと登録できません。
よくある質問(FAQ)
Q. 高速道路は走れますか?
A. 排気量的には可能ですが、現代のハイペースな高速道路を巡航するのは自殺行為に近いです。私のNC750Xのように快適なクルージングは望めません。下道をトコトコ走るのが粋というものです。
Q. 部品はまだ出ますか?
A. ホンダといえど、1968年製の純正部品はほぼ「ご相談パーツ(廃盤)」です。eBayなどを駆使して、世界中からデッドストックやリプロパーツを探す旅に出ることになります。それが楽しいと思える変態(褒め言葉)なら大丈夫です。
Q. なぜそんなに古いバイクを勧めるのですか?
A. 最新の電子制御満載のバイクも素晴らしいですが、キャブレターと機械式接点で動くバイクには、人間と機械が対話するようなアナログな魅力があるからです。BROSに乗り続ける私も、その感覚が忘れられない一人です。
最後に。もしあなたがこのCD175を手に入れたなら、それは単なる購入ではなく「歴史の継承」です。ホンダの技術屋魂を、次の世代に残してあげてください。
それでは、良きバイクライフを。ご安全に。