

「結局、一番長く所有されているホンダは何か」。この問いには、私のように40年バイク雑誌を渡り歩いてきた人間でも、即答するのに少し躊躇します。VFR800か、ゴールドウィングか、それともスーパーカブか。海外メディアが「静かに長期所有を支配しているホンダ」と取り上げたという話を耳にし、ふと考え込みました。今日は時代を遡りながら、なぜ特定のホンダ車だけが10年、20年とオーナーの手元に残り続けるのか、その系譜と理由を読み解いていきます。私のガレージにあるCBR250RR(MC22)も、気づけば30年選手です。
目次
長期所有を支える名車たちの歴史的背景
ホンダが「壊れない、長く乗れる」というブランドイメージを確立したのは、1960年代に遡ります。1959年にCB92ベンリイスーパースポーツが登場し、1969年のCB750FOURで世界を驚かせた頃、ホンダは「24時間耐久テストに耐える量産エンジン」を当たり前のものにしました。私が15歳で中型免許を取り、最初に手にしたCB72もその系譜の末端にありました。あの並列2気筒は、整備さえ怠らなければ何万キロでも回るエンジンでした。1970年代に入ると、CB750K、そして1979年のCBX1000という6気筒の怪物まで登場します。私もCBX1000を所有していた時期がありますが、あれは長期所有というより「儀式」に近い存在でした。一方で、地味ながら長く乗られたのはCB400FOURやCB250T、いわゆる実用ミドルでした。1980年代のVT系、1990年代のCB400SF。これらは派手さこそありませんが、20年30年後も街角で見かける確率が圧倒的に高い。長期所有を支配するホンダとは、結局のところスター選手ではなく、毎日試合に出続ける万能型の中堅選手なのです。これは40年取材を続けてきて、私が肌で感じてきた事実です。
同時代のライバルたちと比較して見えるもの
1992年にCB400SFが登場した頃、同クラスにはヤマハXJR400、カワサキZRX400、スズキGSX400インパルスといった強力なライバルが揃っていました。私はそれぞれを試乗取材しましたが、走りの刺激ではXJR400の空冷4気筒が一番官能的でしたし、見た目のインパクトではZRX400が抜けていました。ではなぜCB400SFだけが20年以上もカタログに残り続け、教習車としても国民的な存在になったのか。答えは「平均点の高さ」と「部品供給の安定性」です。私が以前所有していたZ1100Rは、絶版後の部品入手で何度も泣かされました。一方、CB400SFは1990年代、2000年代、そしてVTECを搭載した2007年型に至るまで、共通部品の互換性が高く、中古市場でも整備士が嫌がらない車種として知られています。同時代のRD400やGSX-R750のような尖ったマシンは、所有して2〜3年でオーナーが入れ替わる傾向が強いのに対し、CB400SFは10年単位で同じオーナーが乗り続けるケースが目立ちました。これは中古車店の店長たちが口を揃えて言うことです。ライバルが個性で勝負した時代に、ホンダは「飽きさせない設計」で勝負した。その差が30年後の今、所有期間という形で表れているのです。
CB400SFが「静かな王者」となった位置づけ
海外メディアが「長期所有を支配する」と表現するホンダ車として、私が真っ先に思い浮かべるのはやはりCB400SFです。グローバル視点ではゴールドウィングやアフリカツインも長く乗られていますが、所有期間の中央値で見ると、日本市場ではCB400SFが頭ひとつ抜けています。理由は明快です。第一に、車検のあるミドルクラスでありながら維持費が予測しやすいこと。第二に、教習所での圧倒的な普及により、ライダーの「最初の相棒」として刷り込まれていること。第三に、2007年に追加されたVTEC IIIで、低速トルクと高回転の伸びを両立させた完成度の高さです。私自身、現在のガレージにはW650、CBR250RR、そしてサンクスホンダ・モンキーが並んでいますが、もし「もう1台だけ増やせる」と言われたら、迷わず2018年式あたりのCB400SFを選ぶでしょう。それくらい、所有することへの不安が少ない一台なのです。2022年に生産終了が発表された際、中古相場が一気に上昇したのも、長期所有を前提とした買い方をしているオーナーが多い証拠です。短期で乗り換える趣味車ではなく、人生に並走するパートナーとして選ばれてきたバイク。それがCB400SFの本当の姿だと私は考えています。
系譜から読み解くホンダの設計思想
ホンダの長期所有を支える設計思想は、1960年代のスーパーカブから一貫しています。それは「整備性」「部品共通化」「過剰品質を避けた信頼性」の三本柱です。私がかつて取材で訪れた埼玉製作所では、ベテランの設計者がこう言いました。「壊れないように作るのではなく、壊れても直せるように作る」。この哲学は、CB750FOURの空冷直4からVFR系のV4、そしてCB400SFの水冷直4にまで脈々と受け継がれています。私が所有していたCBX1000は、6気筒という構造ゆえに整備にコツが要りましたが、それでもサービスマニュアル通りに作業すれば必ず元に戻る設計でした。GSX-R750と比較すると、ホンダの整備性は明らかに一段上でした。さらに、ホンダは絶版車のパーツ供給を「サンクスホンダ」のような形で再生産する取り組みも続けています。私のモンキーがその恩恵を受けている一台です。長期所有を支配するというのは、単に壊れにくいだけではなく、壊れた時に直せる体制が整っているということ。この総合力こそが、他メーカーとの差を生んでいます。ヤマハもカワサキも素晴らしいメーカーですが、絶版車対応の手厚さでは、ホンダに一日の長があると言わざるを得ません。
未来予測:電動化時代に長期所有の概念はどう変わるか
ではこの「静かに長期所有を支配する」というホンダの強みは、電動化時代にも通用するのでしょうか。私は半分楽観、半分悲観の立場です。楽観的な理由は、ホンダが2030年代に向けて電動二輪のラインナップを拡大しつつ、内燃機関のミドルクラスも当面継続すると明言している点です。CB400SFの後継として噂されるCB400ハイブリッドや、ホーネット系の展開を見る限り、長期所有を前提とした「飽きの来ない実用車」の系譜は途絶えないでしょう。悲観的な理由は、電動バイクのバッテリー寿命が長期所有の最大のボトルネックになることです。10年後にバッテリー交換費用が新車価格の半分を超えるようでは、CB400SF的な「20年同じオーナー」という文化は成立しません。ここでホンダの「壊れても直せる」哲学がどう適応するか。交換式バッテリーEM1 e:の展開を見る限り、ホンダはこの課題に正面から向き合っていると感じます。私の予測では、2030年代後半には「電動でも20年乗れるホンダ」という新しい長期所有モデルが登場するでしょう。その時、CB400SFが築いた「静かな王者」の系譜は、形を変えて次の時代に受け継がれていくはずです。(出典: Top Speed)
まとめ
長期所有を静かに支配するホンダとは、スターではなく毎日試合に出続ける中堅選手であり、その代表がCB400SFでした。1992年の登場から2022年の生産終了まで、平均点の高さと部品供給の安定性で30年間オーナーの人生に並走してきた一台です。次のステップ予測としては、CB400SFが切り拓いた「20年乗れる設計思想」が、電動バイクの世界でも新しい形で再構築されるかどうかが焦点になります。気になる方はまず近所のホンダドリームで現行のホーネットやCB650Rを跨いでみて、自分にとっての「20年付き合える一台」を探す旅を始めてみてはいかがでしょうか。
