目次
久々の柏先生
先日筆者は、あの柏秀樹先生と久々にお話をさせていただく機会をいただきました。
柏先生と言えば、40数年の経歴を持つ、モーターサイクルジャーナリストの大先輩。
ビックマシンに乗りながら、ニッコリ笑顔でUターンをキメている姿がトレードマークですよね。
PHOT;KUSHITANI
その姿に、限定解除の時代から憧れている人というも多いのではないでしょうか。
先生はご執筆の他、KRS(柏秀樹ライディングスクール)の校長として日本各地を忙しく飛び回り、バイクを安全に楽しむためのノウハウを、わかりやすく解説されています。
今回はご縁あって、久々の再会となりました。
ちょうど一年で一番バイク事故の多い九月。(17年度警視庁「二輪車の死亡事故」参照)
柏先生に、バイクを安全に楽しむポイントを伺いました。
先生もお勉強
「最近、道志みちでタイムを競って走る若者の一団がいるんだよ」
先生はこの話題から、若い世代の安全意識の低下に危機感を感じておいでだとのこと。
そこで、今回はご自身の講習の訴求効果を、特に若い世代に高めるべく、先生自ら勉強会をご提案になったものです。
また先生のご希望で、コピーライティング等で「人を引き付ける言葉」の研究をしている中央大学商学部の飯田朝子教授も同席。(実は筆者の妻です)
妻にはちゃっかり、会場もチャーターしてもらいました。
教室に着くと、先生は早速座学の講義を開始。
まるまる一本講義をなさった後、我々夫婦に講義の構成の良し悪しや、伝わりやすさなどについて意見を求めらました。
何とも贅沢なプライベートレッスンに夫婦で恐縮。
実技・座学ともに講義の内容には様々な工夫を重ねられ、これまでも長年アップデートを図ってきたことは、先生ご自身がメディアでもお話になっておられるところです。
見上げるほどのご経歴や実績をお持ちの先生ですが、いくつかの指摘事項や提案などについても、フムフムとうなずいて、ガシガシとノートをとっていらっしゃいました。
安住することなく、こうしてさらに自己研鑽を積んでいこうとなさる謙虚で柔軟な姿勢。
安全に対する探求心は素晴らしいと思います。
知ってるつもりではダメ
その先はいろいろとお話をさせていただき、ライダーの安全に対するあるべき姿勢などを伺いました。
先生の素晴らしい講義やレッスン。
それについて若い世代に、どう興味を持ってもらい、『なるほど』と実感してもらうまでの道筋をどう作るか?」という話になり、先生は…。
「一般的に「安全」は日ごろあまり具体的に考えられていないんですよね。」
と、先生は残念そうな表情でおっしゃいます。
「座学でも実技でも、実際の場面で少しでも余裕をもって対処できるようにと、その方法をお伝えしています。
これはやはり、一人でも多くの命を守りたいという思いからです。
でも、「交通安全?ああ知ってるよ」と、知っているつもりで終わる人が世の中には多いんですよね。
企業研修なんかでも、最後まで聞かないで帰ってしまう社長さんもいるんですよ。
社長さんの安全に対するプライオリティーが低かったら、社員もそうなってしまうんです。
けれども、「知ってるよ」と言う人の中で、実際の場面で落ち着いて対応できる人なんてほとんどいません。
コトが起きてからではもちろん遅いのですが、起きてしまえば失うものは大きい。
さらには事故を起こした人が務める企業イメージにも、大きなダメージを与えることがあります。
だからまずは、一人でも多くの人に安全への興味を深めて欲しいんです。」
そう語る先生の目はときに厳しく、時に少年の様に輝いていました。
ライディングの習得は生活に活きる
対談の中ではレッスンに対する興味を訴求する手段として、レッスンを受けるメリットを整理するのはどうだろう?
という話になりました。
一番のメリットはバイクをキッチリ操れるようになることなんですが、そのことは日常生活にもいろいろと恩恵をもたらすのだと教えてくださいました。
「人間の脳は、楽しいと思っているときが一番集中力があるんです。
昔からよく、「忍耐と根性で特訓」でビシビシやった方がいい思っている人がいますよね。
しかし、基本的に人は緊張してしまうと、体がこわばって思考力は低下してしまうんです。
特にバイクの場合、体のこわばりはバイクの動きを阻害してしまうので、いざというときの対応にとってマイナス。
だから忍耐・ど根性でゴリゴリやるのはバイクのレッスンには向かないんです。
基本的のバイクはまず、気持ちのゆとりを多く持つこと。
少しでもリラックスを長く持続させる方法として、レッスンでは『まず笑顔で乗ること。』を大事にしています。」
そういえば先生っていつも顔の咬筋が上がってますよね。
「これだけで気持ちと視野が大きく広がるんです。
また、5キロなら5キロ、5分なら5分と決めて、肩を上げながら鼻から息を吸って口からゆっくり吐く。
これで意識がリセットでき、「安全運転のつもりが漫然運転」と言うのを防げるんですよ。
意識して実践すると、こうして、危険予知力が上がり、とっさのときの対応キャパシティーもするんです。
あとは、要所要所で体の力を抜いたりして、関節の緊張を解くこと。
意識的にこれを行っていくことで、特に長距離では疲れにも歴然とした差が出てきます。
「つまり、それはバイクの乗り方であり、身体の使い方のようなものでもあります。
なので、レッスンでコツをマスターしていくと、気持ちや体の力の入れどころ、抜きどころがわかるようになります。
また、精神面でも気張らないことを覚えるので、考えがスマートになって、普段の生活場面でも疲れやストレスを避けやすくなるんですよ。
多分、楽器であったりスポーツであったり、どんなものでも道を究めると人生は豊かになる。
バイクでゆとりある豊かな生活を求めようという人に、私はその方法をお伝えしているわけです。
バイクの安全を楽しむ
見た目派手なものに飛びつきやすいのが大衆の心理。
レッスンでメインとなる地道な基礎練習の魅力をどう訴求する?という話に先生は、
「いや、技を身に着けていくことって面白い、つまり『安全』って、ついでのもののじゃなくて、目的として結構楽しめるものなんだよ」と一言。
今回の記事のテーマはこれでいただきました。(笑)
「とにかくバイクと言うと、やれ膝を擦りたいだの、最高速は?馬力は?と、扱いきれない派手なものを求めがちなんですね。
だから基礎練習みたいに地味なものは、やる前から退屈だと思って、そっぽを向く人も多いわけです。
私のレッスンでは、最初にいつでもバイクを支えられるように、両足をステップから離して車体を垂直にして、時速2㎞/hを維持する練習から始めます。
はじめの一歩で退屈に思って、怪訝な顔をする人もいますが、極低速ってバイク操作のすべてがあるんです。
つまり2㎞/hでできないことを無いがしろにして、300km/h出したいというのは自殺行為です。
レッスンで一つ一つを習得していくと、それが引き出しとなり、速度が速くなっても危険回避能力を高めることができます。
確かにその過程と言うのは、膝すりのような派手さもなく地味なのですが、次々に発見があり、それを習得する楽しさが実感できるんです。
結果として、どんなバイクをどんな状態でもきれいに乗りこなす技が手に入るのですから、安全を手に入れようとする行為は楽しいことなんです。」
まとめ
筆者は先生の著書もいくつか持っていますし、DVDもいくつか拝見氏しました。
もちろんレッスンも何度か受けています。
筆者も30年以上バイクに乗っているのですが、本を読んだ段階で学ぶことが多く、まず「なるほど」と思えます。
ただ、実技レッスンに参加してそれを体得していくというのはまた別の話。
先生のレッスンは、そんな基本への知ったかぶりを一つ一つ確認してなくすところから始まります。
バイクを止める、曲げる、加速する。
この当たり前なこと一つ一つが、なぜか憎らしいほど難しい。
でもこれを克服していくことが、なかなか面白いんですよね。
「バイクの安全を楽しむ」というのは、「バイクを安全に楽しむ」と言う方が一般的かもしれません。
しかし、先生のレッスンの中には、この文章の「て・に・を・は」を変えてしまうほど、嬉しい驚きがたくさんあります。
つまり、技の習得を目指すことで、まさに「安全を楽しむ」ということになるんですね。
これは筆者も実感しているところですでが、一人でも多くの方に、このハッピーな感覚を味わっていただきたいと思います。
先生のスクールはオン・オフの基礎練習の他、ツーリングやタンデムのレッスン、サーキットレッスンも各地で開催。
「安全を楽しむ?」ちょっとやってみたいかも…。
興味を持たれた方は、柏秀樹先生のライディングスクール(K・R・S)にお問い合わせください。