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「スクーター」と「バイク」のクロスオーバー
「バイクは人機一体の操り感を愉しむもので、右手一本で乗れるスクーターは無機質な乗り物?」
そんなイメージで、ビックスクーターを一段下げた位置にカテゴライズしている人はいないでしょうか。
以前からSNSのやり取りを静観するなかで、なんとなく「バイク」と「スクーター」との間を分かつ垣根のようなものを感じていた筆者。
ですが、X-MAXを初めて見たとき、
「こいつならバイク・スクーターの垣根をぶっ壊してくれるのでは?」
という期待を持ちました。
機会あって今回は X-MAXと1週間を過ごすことになりましたので、
走りにこだわった今どきの250ccスクーター。
その味わいをしっかりと確かめながら、ビックスクーターの新たな価値観を探っていきたいと思います。
X-MAXに漂う「キレの良さ」
2018年1月25日に発売されたヤマハ X-MAX。
恐らくそのデザインに、これまでのビックスクーターとは一線を画する新しさを感じた人も多いのではないでしょうか。
改めて実車で見るX-MAXに感じられるのは、デザインのシャープさ。
「X」をモチーフにしたというフロントマスクは、両眼LOWを点灯させるLEDヘッドライトを持ち、これが精悍なマスクを形作っています。
面白いことにHIビームは、
両眼の間で「口」のように光り、ここがちょっと「顔」っぽくてユニーク。
全高の高さを感じさせるスクリーンは、ボルト位置の変更で、上方に50mm移動が可能で、
UPの位置では、見た目に縦方向へのキレが増す感じになります。
ノーマル位置でも走行風にマイルドさを感じますが、HIの位置なら長距離ツーリングでそのありがたさが実感できるでしょう。
同じく「X」デザインのテールビュー。
こちらも左右に分けられたランプの配置が斬新。
大きくて実用的なグラブバーも、全体のキリリとしたイメージを演出しています。
「ブーメラン」と呼ばれる中央のカバーデザインは兄弟車T-MAXに通ずるところがあり、トータルデザインはスポーツバイクのようなスピード感のある仕上がり。
これまでの「ビクスク」に強調されがちだった、華美な大きさを感じさせません。
しかし面白いことに、、諸元表で最終型マジェスティーと大きさを比較してみると、
マジェスティーの全高/全幅/全長;2175/770/1185。
に対し、X-MAXは全高/全幅/全長;2185/775/1415。
確かにボリュームは感じられるものの、X-MAXの方がコンパクトに見えるのが不思議です。
ライポジのゆとりと足つき性
跨ってみると、ハンドル位置は適度に近く、コントロールのしやすいポジションです。
また、小柄なライダーのためにホルダーの位置を20mm後方にずらしてハンドルを寄せることもできるのが嬉しいですね。
ちなみに筆者が写真の中で持っているカバーは、
純正オプションのユニバーサルステー(¥6,696)と交換することもできるので、スマホをナビとして使う際などに便利です。
足つきは慣れが必要…?
既に写真でお気づきのことと思いますが、足つきあまり楽とは言い難く、片足のみ親指と中指の先端で立っています。
筆者の身長は162㎝、X-MAXのシート高は795mm。
数値的にはもっと余裕があるはずのシート高。
問題はシート幅にありました。
座面は先端にかけて絞り込まれて山形になってはいるものの、
ライダーの腿あたりで約35cmと幅広く、この幅にただでさえ短い脚の長さを取られる格好です。
ライダーの体格と慣れ次第では解決できそうな範疇ですが、どうしても気になるということであれば、
純正でローダウンキット(¥69,120)の用意もあるので、そちらを検討するのもいいでしょうね。
使い勝手の良いインターフェイス
中央にマルチファンクションディスプレイを持つメーター周りの視認性は良好。
ハザードの下のスイッチで、
オド・トリップメーターのほか、平均燃費や 瞬間燃費、さらにはVベルトトリップやオイルトリップ等、ツーリングにもメンテナンスにも便利な12 項目の表示情報を切り替えが可能です。
また、スタータースイッチはキルスイッチと一体にインテグレートされたもの。
このおかげでボタンもゴチャつかず、各ボタンの操作性も自然で良好なものだと感じました。
安全装備のさりげない存在感
クラッチのないビックスクーターではよく、
「雨の日に交差点で、青信号でバッとアクセルを開けたら横を向いちゃったよ」
というのもよく聞いた話です。
しかし、X-MAXにはトラクション・コントロール・システム(TCS)が採用されているので、そんな日も安心。
TCSは後輪の空転を予見して点火時期や燃料噴射量を制御して操安性を保つものです。
砂利の上のUターンは通常なら神経質になるところですよね。
ところが、X-MAXでは「そういえば、砂利の上だったっけ?」とUターンしてからその有難みに気づくほど、その作動は自然なもの。
TCSの有難みがよくわかりました。
またX-MAXはABSを前後に標準で装備しています。
今回の試乗期間はいづれも晴天に恵まれましたが、砂利道のUターンでわかったように、X-MAXではこうした安全装備のおかげで、多様な路面条件下でも気疲れせずに乗り続けることができるのではないかと思います。
スクーターでありスポーツバイクである
さて、ここまでならば、これまでのビックスクーターとあまり変わらないところかもしれません。
X-MAXの乗り味はその外見にたがわず、「スポーツ・スクーター」として、250㏄スクーターの新しい領域を見せてくれました。
頼れる足回り
X-MAXにはスクーターとしては珍しいモーターサイクル型のフロントフォークが採用されています。
さらにリアサスには、荷物の多いときやタンデム時にも自然なハンドリングを楽しめるよう、
初期加重を5段階に調整できるプリロードアジャスターも装備されています。
これまでビックスクーターというと、その乗り味はリアヘビーで、クイックなターンをしたいとき等はフロントの荷重に不満を覚えることも少なくありませんでした。
しかし、X-MAXは乗り出してみると、フロントにしっかりと接地感を感じながらスーッと曲がっていける気持ちよさがあります。
スポーツバイクの様な高い操安性を楽しめる感覚は250㏄スクーターとしては新鮮。
ただ、街中走行では路面のギャップの超え方がやや硬く感じられ、このサスの感触には乗り初めに若干戸惑いました。
しかし、乗り込んでいくうちにこのカッチリとしたセッティングの理由が、エンジンのキャラクターとともに明らかになっていきます。
新しさを実感するブルーコア
パワーユニットは23PSの水冷ブルーコアエンジン。
「って、そもそもブルーコアって何?」
ということですが、これは早い話、徹底的にパワーロスを排除して高効率・高燃費かつ環境性能を高次元で両立させたエンジンに対してヤマハが名付けた名称です。
X-MAXは、ビックスクーターのアクセルの開け初めにありがちな遠心クラッチの「ココココンっ」という振動や加速ラグがなく、右手の動きに従順で一気に加速していきます。
しかも、あまりアクセルを開けていないつもりでも、スピードメーターの針がグワッと上がっていくので、このスポーティーなダッシュ感にはかなり驚かされました。
この加速の良さに気をよくして高速道路を走ってみると、X-MAXの狙いどころが段々と見えてきます。
街乗りでやや硬さを感じた足回りは、速度を増すごとに上質で滑らかな走りに貢献していることを実感させました。
レーンチェンジでもストレスなく加速し、かなり高回転をキープするにもかかわらず音も静か。
乗り味は実にスポーティーですが、フロアに足をのせている楽な姿勢はスクーターそのもの。
ちょっと狐につままれたような感覚にニヤリとした筆者。
さらにイタズラ心に火をつけて、X-MAXを峠道に放り込みました。
エンジンのリニアな反応も手伝って、ヤマハらしいハンドリングの良さとともにリズムよくコーナーを快走。
もちろん、膝を擦っていくオニイサン達には道を譲りますが…、
「これはやはり、スポーツバイクとスクーターのクロスオーバー、つまりスポーツスクーターなんだ」
と、切り返すコーナーの中で悟り、250㏄ビックスクーターの新しい領域に触れた気がしました。
ちなみに今回の試乗では市街地から高速道路、さらにはワインディングなど多様な条件下で約251㎞を走行。
ヤマハのツーリングアプリRevNoteで計測したところ、平均燃費は32.0km/L と出ました。
これはやはりブルーコアの優れた燃費性能を実感できる数値だと思いますね。
スポーツバイクでありスクーターである
様々な走り方をトライする中で、確かにスポーツバイク的なテイスト溢れるX-MAX。
しかしスポーツ性だけで選ぶとすれば、MTスポーツにかなわないところは多々あります。
では面白くないのかといえばそうではなく、スクーターならではの持ち味がこの高いスポーツ性と掛け合わされているのが、X-MAXの真骨頂だといえるでしょう。
機能的なユーティリティー
例えばキーレスのICタグを持ってさえいれば、そのままパッと乗り込める。
モーターサイクルでは、RC213VsやGL1800などの限られた車種にしかできないことなので、スポーツバイクユーザーならこれはうらやましいところではないでしょうか。
ICタグを持っていれば、こちらのイグニッションスイッチを操作することができ、
シートやフロントポケット、さらには給油口の開閉等も行うことができます。
スクーターならではの魅力
そして「LID」ボタンで開錠できる左のグローブボックスにはDC電源とコードの通し穴があり、右のボックスはプッシュ式で開閉するので、それぞれ使い勝手はよいものです。
また、「SEAT」ボタンで開閉するトランクスペースは、45リットルの大容量。
単にスクーターという見方ではなく、スポーツバイクにこれだけの収納力があるという見方をすれば
「ここに何を入れるのが一番楽しいか?」
と、いろいろと考えるのが楽しくなり、ちょっとワクワクしてきますね。
X-MAXで親子の絆を深めてみる
X-MAXの「スポーツバイク×大容量の積載性」は、車に例えて言うならば、それはスポーツグレードのファミリーカーのようなもの。
ならば「トランクルームは子どもと遊ぶおもちゃ箱にしよう!」ということで、筆者は8歳の娘をちょっとしたピクニックに誘ってみました。
座面の広いX-MAXは娘にも好評です。
ただ、子乗せの場合にはタンデムステップが遠いので、走行中の娘はライダーシートに親父に張り付いて乗車。
トランクルームはタープやイスやテーブル、そして娘の好きな遊び道具でぎっしりです。
バイクでは運べない長ものを楽に積めるので、出先では大きく展開することができました。
積むものや積み方を工夫すれば、一泊2日くらいのキャンプにも行けそうです。
以前はこの記事のようにバイクをママチャリ代わりにして、親子タンデムを楽しんだものです。
しかし最近、車をリアモニターのついたファミリーカーに買い替えてから、めっきり親子タンデムの機会も減りました。
確かに親父としては後席にいる娘におとなしくしてもらうには都合がよく、娘にとってもテレビ付きの車は魅力のようです。
久々にタンデムしてみると、自然と親子の触れ合いや会話が自ずと生まれ、親子時間が一層楽しいものになることを再確認できました。
バイクで行くより多少大きな荷物も積めるので、X-NAXは楽しみの幅も大きくなります。
またフットワーク良さを活かして、あえて予定を組まずに「迷子探検」を親子で楽しむのも楽しいでしょうね。
まとめ
荷物の多いタンデムならば、これまでのスクーターにもできると思います。
しかし、X-MAXは通常のビックスクーターでは味わえない「スポーツバイク」としての楽しさも兼ねそろえています。
この試乗を通して、スポーツスクーターという新たな価値に触れ、その可能性の大きさを感じました。
スポーツスクーター、その楽しさは諸元以上。
こちらに試乗車を検索を用意させていただきましたので、皆さんもお近くのお店で体験されてみてはいかがでしょうか。
車両協力;ヤマハ発動機販売