
みなさん、こんばんは。井上 亮です。ガレージでTRX850のトラスフレームを眺めながら、缶コーヒーのブラックをすする時間が至福のひとときという、なんとも地味な夜を過ごしております。先日、愛車のFZX250 ZEALのキャブ調整をしていたら、近所の猫が寄ってきてマフラーの中で暖を取ろうとしていました。危うく「猫付きバイク」になるところでしたよ。生き物の温もりもいいですが、やっぱりエンジンの熱気こそが最高の暖房器具ですよね。

さて、今回は海外の熱心なライダーから非常に興味深い、そして「ヤマハ党」としては思わずニヤリとしてしまうトピックが舞い込んできました。「最新のYZF-R1の中身(サスペンションやブレーキなどの性能)は欲しいが、見た目は先代(2015-2019年モデル)のシャープなカウルの方が好みだ。移植は可能か?」という相談です。
これ、めちゃくちゃわかります。私もTRX850に10年乗っていますが、あのハーフカウルの造形美は現代のバイクにはない「尊い」バランスがあるんです。一方で、普段の足として乗っているMT-09の電子制御やクイックシフターの恩恵を受けると、「この中身で外見がTRXだったら最強なのに……」と妄想することがありますから。
結論から言いますと、このカスタムは「理論上は可能だが、カウルステーや吸気ダクトの加工という『沼』にハマる覚悟が必要」です。
ヤマハのデザインは「人馬一体」を体現するための機能美ですが、世代ごとの顔つきには好みが分かれますよね。それでは、この禁断の移植手術について、私の経験とヤマハ愛を交えて理屈っぽく、しかし熱く解説していきましょう。
目次
新旧R1の比較と移植のメリット・デメリット
まず、相談者さんが「7th Gen」と呼んでいる2015-2019年モデル(型式2CRなど)と、最新の2020年以降(B3Lなど)の違いを整理しておきましょう。
| 比較項目 | 7th Gen (2015-2019) | Newest Gen (2020-Present) |
|---|---|---|
| デザイン | 直線的でエッジが効いている。アイアンマンのような無骨さ。 | エアロダイナミクス重視で滑らか。少し有機的なライン。 |
| 空力性能 | 当時のM1直系だが、現行より抵抗値は高い。 | 空力効率が5.3%向上。高速域での安定性が増している。 |
| メカニズム | EBM(エンジンブレーキマネジメント)等は未搭載のモデルも。 | EBM、BC(ブレーキコントロール)など電子制御が進化。サスも熟成。 |
| 移植難易度 | オリジナル | 要加工(特にラムエアダクトとヘッドライトステー周辺) |
なぜ「わざわざ」古いカウルを付けたいのか?
相談者さんの気持ち、痛いほどわかります。2015年に登場したR1は、それまでの国産スーパースポーツのデザインを過去にするほどの衝撃でした。あのヘッドライトを目立たなくさせたフロントフェイス、まさにMotoGPマシン「YZR-M1」が公道に降りてきたかのような佇まい。私も発表当時はその美しさに言葉を失い、カタログをボロボロになるまで読み込んだものです。
対して2020年以降のモデルは、エアロダイナミクスを追求した結果、少し丸みを帯びて「優等生」な顔つきになりました。性能が良いのはわかっている。MT-09に乗っていて感じるのですが、ヤマハの最新技術は本当にライダーを上手くしてくれます。IMU(慣性計測装置)が「おっと、滑るよ」と囁く前に制御してくれる感覚。あれは魔法です。
しかし、ヤマハ乗りというのは厄介な生き物でして、性能数値よりも「官能評価」や「見た目の刺さり具合」を重視する傾向があります。「速いのはわかった。でも、俺の魂が震えるのはこっちのデザインなんだ!」という理屈抜きの感情。これこそがヤマハ愛の真髄であり、今回の相談者さんが陥っているジレンマでしょう。
おすすめの構成と攻略法
もし私がこの「魔改造」を行うとしたら、以下の手順でアプローチします。MT-07からMT-09へ乗り換えた時に感じた「マスの集中化」の変化なども考慮すると、重量バランスを崩さないことが重要です。
まず、メインフレームの基本骨格は2015年から大きく変わっていません。これは朗報です。しかし、以下の3点が鬼門、いわゆる「草が生える」ほど面倒なポイントになります。
1. ラムエアダクトの形状
2020年モデルはインテーク周りの剛性が強化され、形状が微妙に変わっています。古いカウルを付けるには、ダクト部分の造形を現物合わせで削るか、ダクト自体を旧型のものに交換し、それが新型フレームに付くようステーを自作する必要があります。
2. ヘッドライトとポジションランプ
新型と旧型ではLEDユニットの配置やステーの位置が異なります。ここを適当にタイラップ止めなんてしたら、ヤマハの芸術性が台無しです。しっかりとしたステー加工が必要です。
3. サブフレームとシートカウル
もしリア周りまで旧型にしたいなら、シートレールの互換性も確認が必要です。ただ、フロントだけのスワップなら、ここはスルーできるかもしれません。
注意点:電子制御への影響
ここが一番の理屈っぽいポイントですが、最重要です。最新のR1はIMUが車体の姿勢を1秒間に何百回も監視しています。カウルの形状が変わることで、高速域でのダウンフォースや空気抵抗が変化します。
「たかがカウルでしょ?」と思うなかれ。2020年モデルの空力特性に合わせてセッティングされたサスペンションや制御が、旧型カウル(空力特性が劣る)を付けることで、超高速域で想定外の挙動を示す可能性があります。まあ、サーキットでコンマ1秒を削る走りをしない限りは誤差範囲かもしれませんが、ヤマハのハンドリングにうるさい私としては、空力バランスの変化によるフロントの接地感の違いが気になって夜も眠れなくなるかもしれません。
それでもやる価値はあるか? あります。だって、バイクはカッコ良くてナンボですから。ガレージに停めた愛車を見て「最高に尊い……」と溜息をつけるなら、多少の加工の手間なんてスパイスみたいなものです。
もしこのプロジェクトを実行するなら、純正部品を新品で揃えるよりも、オークションなどで中古のカウルセット(中華製のリプロ品はチリが合わなくて地獄を見るので非推奨)を入手して、仮合わせをしながら進めるのが吉です。
最後に。ヤマハのバイクは「人機官能」。スペックシートには表れない「ライダーの悦び」を大切にします。あなたが一番カッコいいと思う姿で乗ることこそが、メーカーへの最高のリスペクトになると私は信じています。頑張ってください!









