YAMAHA新型SR400試乗レポート 変わりゆく時代に変わらないSRの魅力
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「YAMAHA SR400」と聞いて何をイメージしますか?

皆さんは「ヤマハのSR」と聞いてどんなバイクを連想されるでしょうか?

  • いつまでもスタイルを変えない古めかしいバイク?
  • キックスタートしかないめんどくさいバイク?
  • それともシンプル過ぎて退屈なバイク?

1978年のデビュー当時のスタイルを頑なに守り、環境規制等による2度の生産中止をも乗り越え、発売40周年を迎えたヤマハSR400。

ライダーの世代や指向によって、様々な受け止め方があるのだと思います。

今回筆者はヤマハさんから11月22日に発売されたばかりの新型SR400を1週間お借りしてきました。

見かけはこれ以上ないほどシンプルなバイク。

しかし、走らせてみると単なる乗り味についての印象」を超え、人の生き方に「物事の本質」というものを強く訴えかけてくるようなインパクトを感じました。

今回は「SR400が世の人に語りかけること」について考えてみたいと思います。

SRってかわいいんだね

「え、これで最新型なの?」

これは、今回お借りしたSR400 を見た妻の第一声。

恐らく、多くの人がこのSRを見てそう思うのかもしれません。

何の変哲もない形をしたバイク。

妻はそのあと、

「SRってこんなに可愛かったんだね」

とも言っており、筆者も

『確かにそうなのかもしれない』

思い直しました

この新型SR400復活に至るまで、「次期SR」を予想した様々な記事には、灯火類についても今風の小径LEDヘッドライトになるという予想もありました。

しかし、そんな予想を裏切って登場したのは、これまで通りのハロゲンヘッドライトに大きなウインカー。

やはり、この「顔」こそがSR400の顔なんですね。

既に見慣れたと思っていたSRのタンクもですが、こうして手元に置いてみると、その外観からはカタログで見るよりも味わい深いものがありますね。

昔ながらの形のタンクが鏡のように、いまの青空を映していているのが美しく、しばらく見とれてしまいました。

テールまわりにもあふれんばかりの機能美が輝いています。

むかしの姿を模したネオレトロが多い中、昔のままの姿をしているのがSR400。

直線的なデザインのデジタルバイクが多い時代。

SR400が持つ丸みのある佇まいは見る人に新鮮さを与え、女性の目を通して見ると、それが「かわいい」という表現になるのかもしれませんね。

これまでは単気筒というともっと武骨なイメージで捉えていたのですが、「かわいい」と思えたのは発見でした。

身の丈に丁度いいバイク

SR400のシート高は先代を継承する790mm。

ちなみに筆者の身長は162㎝です。

  

両足とも足の裏ををべったりと接地させることができ、しかも跨ったままお尻をシートから少し浮かすことができるほど、膝には余裕がまだあります。

ハンドルの高さ・近さも程よい位置にあり、ライディングポジションはやはり非常に楽なもの。

良好な足つき性とも相まって、跨った感覚にも大きな安心感を覚えました。

かつてはマシンの過激さを求めて、足つき性の悪さや体格に会わない車体の大きさもなんのその。

筆者も小柄な体格ながら、無理無理そういったマシンばかりを求めた時代もありました。

しかし、

「身の丈にちょうどいいバイクに乗ると、跨っただけで気ぜわしさが消えるのだよ」

SR400にそう言われたような気がします。

変わらないという進化に驚く

「変わらない」と言われ続けるSR400。

しかしその中身は驚くほど進化していて、それを表に出さないのがSR400の凄いところだと思います。

2009年に環境基準適応のため、吸気システムがキャブレターからインジェクション(以下F・I)に変わったのは多くの人が知るところ。

ただ、単純にキャブレターをF・Iに置き換えただけだと思っている人も多いのですが、実はそうではありません。

シリンダー内でピストンが降りることで「適量」の混合器が吸い込まれ、上昇するピストンがそれを圧縮し、さらに点火プラグがそれに点火したのち掃気される。

キャブレターでは非常にシンプルな構造で、内燃機の基本4行程を回すことができたわけですね。

しかしF・Iにおいて、混合器の「適量」を決めるのは、数種のセンサー群とそれを統合するコンピューター、そしてインジェクションに圧力を加える燃料ポンプ。

さらにはF・Iシステムを動かすためにバッテリー容量の増強なども不可欠です。

ですからSR400の極めてシンプルな形の中にそれらを収めるのは実に大変なこと。

SR400本来の姿は、とうに崩れていてもおかしくなかったわけです。

具体的にどうしてあるかといえば、燃料タンクにポンプが入って容量が減った分、サイドケース内にサブタンクが設置されていて、さらにバッテリーとECUが押し込められています。

その為、サイドケースは左右ともキャブ時代よりも1cm高さを増したものになっているのですが、全体的にキャブ車と並べてみても気付かないくらいの変化に留めているのです。

また、F・Iでは、マフラーにもO2センサーも作動条件には必須の装備。

エキゾーストパイプの前部にちゃんとO2センサーがついているのですが、これもメインフレームのそばに設置するなど、大きく目立たない工夫がされています。

ここまでは先代型までのおさらい。

新しい環境基準では大気中への気化燃料の蒸散をなくすことが義務付けられたため、ジェネレーターカバーの前には蒸散ガスを回収する「キャタライザー」が新たに設置されました。

2019年型として見分けられるのはおそらくここがポイントになるでしょう。

キャタライザーについては、先にセロー250紹介記事の中でもお伝えしましたね。

空冷に厳しいと言われる環境基準。

しかもシンプルなバイクの車体で、蒸散ガスへの対応を果たすのは不可能ともいわれてきた中、SR400の姿を守ってくれたキャタライザーの功績は大きいと言えます

つまり、内容は時代の要求に応えてかなり進化しているのですが、これを時代に流されない普遍な形の中に再現しているのがSR400の凄いところです。

意外なほど軽くて簡単なキック始動

やはりSR400を語る上でキックスターターの話は欠かせません。

  • 「めんどくさいからいい加減セルにしろ!」
  • 「時代錯誤も甚だしい!」

今回の新型復活前にはそんなコメントも少なからずでしたが、実際のところどうなのでしょうか?

筆者はキャブ車のSRについては何度もキックした経験がありますが、インジェクションになってから始動させるのは初めて。

でも、跨ってみると左のスイッチ群の下には、

F・I車にもかかわらず、今まで通りデコンプレバーがついていて、

ピストンの上死点を探るための「窓」もまた、従来通りの位置にあります。

キルスイッチがONになっているのを確認して、イグニッションスイッチをONに。

すると、「ウィーン」と燃料ポンプがタンクを加圧する音が聞こえました。

オーセンティックなメーター周りを眺めながらこの音を聞くのは何とも不思議な気持ちになりますね。

キャブのSRではグッと重さを感じたキック。

しかも、何度もキックを繰り返していた記憶があったので、ちょっと気合を入れて臨みました。

デコンプを引いて、ゆっくりキックを下しながら「窓」で上死点を確認。

いよいよ一気にキックを踏み下ろします。

新型SR400のキックは「スルんっ!」という感じで軽く踏み切れて、簡単に一発始動することができました。

キャブのSRよりもかなり素直になった印象です。

また、新型では音質にもかなりこだわって調整されたとのこと。

エンジンのアイドリング音も「ドドドっ」と言う波動はなく、「トゥルル」という丸みのある優しい音がします。

これは毎日付き合う相棒の「声」として可愛らしさを感じますね。

親指一発でキュルルとかかるエンジンは確かに便利です。

しかしキックには、身体を使ってマシンの「声」を呼び覚ます楽しさがありました。

また、「走りだすための一手間」が加わることで、ライダーにも気持ちを切り替える余裕も生まれます。

そうして、キックにはいろいろ気付かされることがありました。

SR400は実に可愛いバイクです。

俊敏で味わい深く優しい乗り味

もっと武骨にドカドカと、激しい振動とともにトルクに押されながら加速していくことを想像していたのですが、

いざ走り出してみると、これまでの単気筒に対する先入観は簡単に覆されました。

まず驚くのは、「流石にF・I車なんだなぁ」と感心するほどレスポンスが良いこと。

アクセルを開けていくとトルルルルッと軽快な音とともにスピードメーターの針はスルスルと登っていきます。

さらに意外だったのは、かなりの静粛性があること。

特に街中で常用する3千回転では、走行風の方が大きく聞こえてくるくらい。

振動も心地よいく、乗っているうちに気持ちの中の雑味が風の中に消えていくような快感がありました。

また、サスペンションの粛々とした動きが非常に穏やかで、実にきれいな乗り味をつくってくれています。

特に凝った調整機構を持たず、シンプルな構造の前後サスペンション。

しかしコーナーの切り返しもスッと立ち上がり、車体・足回りにヤマハハンドリングの鮮やかさを感じました。

キック云々について語られることが多いSRだけに、筆者としてはこの車体性能のすばらしさを強くアピールしたいですね。

また高速道路では振動が強まって苦労することも予想しましたが、その心配も取り越し苦労。

確かに100㎞/h以上を求めると、加速の伸びも俊敏さを失い、振動ある程度のものを感じるようになります。

しかし、高速巡行も100㎞/hまでであれば、ルーンという落ち着いた音、そして振動の気持ちよさに癒されることと思います。

この速度域ではサスもしっかりさを増してくるので安心感が高いですね。

スペック的には前回、先代よりも最高出力は2psダウン。

しかし最大トルク発生値はかなり手前の回転数に移されました。

新型SR400 2017年型SR400
最高出力 18kW(24PS)/6,500r/min 19kW(26PS)/6,500r/min
最大トルク 29N・m2.9kgfm)/3,000r/min 29N・m2.9kgfm)/5,500r/min

このトルクの盛り方が見直されたことで、乗りやすく心地良い乗り味に仕上がっているというのが実感できます。

「馬力だけがバイクじゃないよ」

新型SR400はそんな風にバイクの楽しさの本質を優しく教えてくれている気がしました。

まとめ

SR400に新型の話が出ると、ついて回るのは「とうとうセルスターター搭載?」という噂。

しかし、筆者は絶対にそれはないと考えていましたし、これからもないと思っています。

かつてお伝えしたYAMAHA MOTORCYCLE DAY 2018というファンイベント。

この中で開発担当の方に、SRセル化について伺ったのですが、

「セル化については、非常に多くのお声をいただいていました。
しかしそれをやってしまうと、もはやSRではなくなってしまう。

それが我々がSRにセルを付けない一番の理由です。」

というお答えを頂戴しました。

「セルを付けるとSRではなくなる」?

実はこれを明快に説明する言葉があります。

それは、京都大学デザイン学ユニットの川上浩司(かわかみひろし)教授が提唱されている不便益」という言葉。

例えば、富士登山が大変だからと言って山頂までエスカレーターをつけたとすると、登山そのものの意味が失われます。

遠足のおやつが300円までだからと、「おやつ300円セット」を買うのは便利ですが、300円以内の組み合わせを考える自由な工夫が失われます。

すぐに結果を得ることに慣れ、結果に至るプロセスを楽しむ余裕が失われつつある現代に、物事の本質を愉しむのが不便益という概念。

これはまさに、手間を愉しみ、シンプルな中から深い味を醸し出すSR400にふさわしい言葉。

SRが、ある人には懐かしく、ある人には新鮮な驚きをもって受け止められ、その形に普遍性が求められる理由がそこにあるのだと思います。

皆さんもお近くの試乗車レンタルバイクなどで、SRの不便益を楽しんでみてください。

きっと便利の中に失った愉しみに、もう一度出逢えると思います。

 

車両協力;ヤマハ発動機販売株式会社




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