【試乗レポート】e-VinoとPCX-ELERTRICに乗って考えるEV2輪の今と未来
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EVバイクってどんなものだろう?

2030~2040年にかけて、内燃機のみを主動力とする自動車の製造・販売を禁止することを既に決めている国が多数あり、モビリティーの電動化はもはや世界的な課題。

もちろんバイクもその例外ではありません。

しかし、バイクの場合は搭載できるバッテリーにスペース的な限界もあり、既存の内燃機バイクと同等の性能と航続距離をEVに求めていくことは、現時点では難しいと考えられています。

また、音やバイブレーションによって醸し出される車両ごとの個性を楽しんできた我々ライダーにとって、EVバイクがどのような存在になるのかは、にわかには想像しがたいものですよね。

単なる移動ツールとしてではなく、相棒としてのときめきを、EVバイクは私たちに与えてくれるのだろうか?

そう思い、今回は実際のEV車種に触れながら将来のEVバイクの在り方を考えてみたいと思います。

国内メーカーが造るEVバイクの今

今回はホンダのPCX ELECTRICとヤマハのe-Vinoの2台をお借りしました。


この2台に注目した理由は。

  • 原付1種と2種であること。
  • カートリッジ式のバッテリーを採用していること。

という2点。

e-Vinoってどんな乗り物?

原付一種は、非現実的な速度規制や環境規制に伴う価格の上昇などによって、その需要は右肩下がりの状況が続いています。


日本自動車工業会 「2017年度輪車市場動向調査」より引用

最近では、

「メーカーが排ガス規制にかかるコストに耐えかねて、2020年にはついに50㏄(原付1種)の新車販売がなくなる?」

そんな噂もあるほど。

一方で、

「EVで原付一種が生き残る」

という見方もあります。

原付1種は元々スピードを出す乗り物ではなく、一回の航続距離もおおむね少ないもの。

なので私も以前から、原付1種とEVは相性が良いのではないかと考えていました。

そんな視点から、まず原付一種のe-Vinoを試していきます。

親しみやすい外観


丸みのあるデザインが可愛らしいe-Vino

EVスクーターといっても、その外観は既存のビーノと大きく変わらず、特別な感じがしません。

恐らく、そういったところも、e-Vinoを親しみやすく感じる点なのかもしれませんね。

一般のVinoと見比べていくと、e-Vinoには当然マフラーがなく、パワーユニットにもその違いが見て取れます。


本来のメットインスペースはバッテリーがぎっしり。

写真右が動力バッテリーで、左側は別売オプションとなるスペアバッテリーが入っています。

ちなみにバッテリー本の重さは約6㎏。


体脂肪はわかりませんが、私よりスリムで軽く、扱いやすいのは確かです。(笑)

一般のVinoとはメーターも異なり、デジタルになっているのがe-Vinoの特長。

その乗り味やいかに?

さて、実際の乗ってみてどうなのか?

その乗り味を試していきます。


イグニッションの形状は通常のVinoと全く一緒で、まずはここをONにするところから始まります。


すると、メーター左下のモードボタンを押すことを求められるので、ここ押してシステムスタート。


アクセルをひねると極めて静かなモーター音とともに、ゆっくりと走り出していきます。

ほぼ無音のまま走っていく感覚は新鮮。

音らしい音と言えば交差点でつけるウインカーのカチカチ音くらいなものです。

平地では35㎞/hまでで加速をやめるので、白い1300㏄の貴公子たちのお世話になる心配はまずないでしょう。

しかし、幹線道路では常にミラーで後ろを気にしていなければならないので、まったく気が抜けません。

最高出力は1.2kW(1.6PS)。

私の活動エリアは東京の多摩の丘陵地帯なので、はっきり言ってここはe-Vinoにとってイジメの様な地域。

今回の撮影地は山坂を超えた丘の上の大学構内で行ったのですが、途中勾配に差し掛かると、フルスロットルでもみるみる減速していきました。

しかし、そんなときのために、e-VinoにはBoostボタンがついています。


これは、加速したいときや上り坂などで一時的にパワーUPする機能。

写真のブーストボタンを押すとメーター上に矢印が点灯し、30秒間作動するアシスト機能です。


モードボタンを「パワーモード」にした上で実際に使ってみたのですが、
ゆっくりとではありますが坂に負けずに1㎞/hずつ頑張って挽回してくれました。

メーカーが公表しているバッテリー1本当たりの航続距離は定地30km/hで29㎞。

しかし、この丘陵地帯で頑張らせすぎたせいか、11.9㎞走ったところでバッテリー残量が少ないことを表す「カメ」マークが点灯。

走行条件にもよるとは思いますが、1バッテリーが1回の充電で走れるのは、14~15㎞以内と見積もっておいたほうがよさそうです。

ちなみに、1本のバッテリーを0からフル充電するのには約3時間を要します。


車体はやはりVinoとしての良さをもっていますが、乗ってみての感想をまとめると、まさにリアルな「原動機付自転車」。

やはり、どうしてもバッテリーの残りが気になるので、目的地との往復以外に、「あ、ここに行ってみよう」という使い方が難しいですね。

現時点では、駅までの足や、近所のスーパーの買い物など、かなり限定的な使い方を求められる乗り物なのだと思います。

なので50㏄のエンジン車にとって代われるかというと、まだまだハードルは高いのではないかと思います。

PCX ELECTRICって、どんな感じのスクーター?

PCX-ELERTRICは一般発売こそされていませんが、2018年11月から法人向けリース販売が開始され、2019年からは観光地においてレンタルのサービス実験も開始されています。

市販が期待されるホンダPCX ELECTRICですが、その乗り味や使い勝手はどういったものなのでしょうか?

EVとしてのエレガントな外観


外観は現行のPCX150右(写真右)とほぼ同じようにも見えますが、PCX ELECTRICではライト周りやフットレスト付近にあしらわれたブルーのラインが特別感を印象付けていますね。


特に、両サイドにある「ELECTRIC」のエンブレムが「おっ」と思わせるところ。

これを確認するかのように後ろに回り込んでみると、


やはり、そこにはマフラーはありません。


専用のパワーハンガーを追加しているため、ホイールベースを65mm延長しているPCX-ELERTRIC。


一般のPCXと並べてみると、フェンダーのデザインも異なるのがわかります。


パワーユニットにもスマートなデザインが施されていますね。


そのカバーの中には磁石埋め込み型のモーターが収められています。

そして本来、23リットルもの大容量を誇るメットインスペースですが、


PCX-ELERTRICでは、新開発の48vバッテリーを2個搭載。


それでも後部バッテリーの後ろに小さめのカッパくらいなら入りそうなスペースが残されています。

乗り物が「スマート」ってどういう意味なんだろう?


イグニションは一般のPCX同様ICタグになっているので、このタグを持っていれば、


メインスイッチを回して起動。


さらにリアブレーキを掛けながら、スタートボタンを押すことで走行が可能になります。


走り出しはシュイっとスムース。

キュィーンと静かなモーター音は風音の中に消え、加速はほぼ無音かつ無振動。

平地での加速は60㎞/hまでですが、小さなEVにありがちなもたつき感がなく、

丘陵地の坂道でもしっかりと加速するので、125㏄クラスにして申し分ない走行性能です。

また、車体はしっかり感に定評のあるPCX。

そのホイールベースをさらに伸ばしているということで、走る・曲がる・止まるという基本性能は「流石はHONDA」と唸るほど、上質に造り込まれているのがわかります。

確かに「スマートな乗り物」というのはこういうことなのかな?と思いましたね。

しかし、どうしても気になるのが、バッテリー残量。

HONDAが公表する1充電での航続可能距離は41㎞。
※(60km/h定地走行テスト値)〈1名乗車時〉

ですが、多摩の自宅から丘陵地帯を超え、18㎞ほど走った隣町の日野市内では、既にバッテリー残量は49%を示しています。

つまり、ここで折り返さないと自宅に帰り着くことができないわけです。

メーターパネルのSETボタンを押すと、2本のバッテリーを時間差で使っているのがわかり、内燃機で言うリザーブタンク的な状態にもなるのですが、


それをしても何とかたどり着いた自宅近辺では既に残り3%。

当初は「PCX-ELERTRICでツーリングも」と考えていたのですが、丘陵地帯であることを考慮すると保険的に片道を17~18㎞として往復35㎞に限らなくてはならず、それはまだ難しいようです。

充電は力仕事?

この2つのバッテリーは、1つを予備的にも使うのですが、常時協調しながらモーターに電力を供給し、一回の走行でこの2つを必要とします。


バッテリーの重さは1本10kg。

一回に2本。

「女性にこの上げ下ろしは厳しいのでは?」と妻が言っていました。

しかし、2WAY給電なので、


リッドを開けると、


100vの家庭用電源からも充電が可能。

駐輪スペースで電原が使える人であれば、この方がいいかもしれません。

ちなみに、バッテリーを充電器にセットして充電する場合、0からフル充電にかかる時間は4時間。

車体のコンセントを使って充電した場合は6時間かかります。

ヤマハの充電器も同様ですが、充電中は充電器からの「ゴァー」という音が気になりました。

ドアを閉めて別室で過ごす分には気にならないとは思いますが、恐らくワンルームマンションなどでは気になる音量だと思います。

法人向けリース販売のみのPCX-ELERTRIC、一般販売にあってはこうしたことも課題になるのかもしれませんね。

EVの泣き所

現代のEV自動車は内蔵しているバッテリーに充電する方式が一般的で、補給時間がガソリン給油よりも長くなるのは必至です。

乗用車の場合充電時間は急速充電で40~60分。

早いと言われる車種でも急速充電に25分はかかると言われています。

さらに言えば、急速充電は相当にバッテリーの寿命を早めてしまうのも事実。

その交換には非常に高価な予算が必要になると言いますから、この辺が今のEVの泣き所です。

しかし、放電したバッテリーを、充電済みのバッテリーとカセット式に交換出来たらどうでしょう?

多分、補給時間は今のガソリンスタンド並みの速さにはなると思います。

また、高価なバッテリーを交換したり、そのために車を手放すことも無くなるのではないでしょうか?

交換式バッテリーEVに期待

今回試乗した2台は、カートリッジ式のバッテリーを積んでいて、予備のバッテリーと交換することも可能です。


しかし、メーカーごとにバッテリーが違い、これではかつてのビデオデッキの「ベーターなのかVHSなのか?」という状態です。

先月、国内4バイクメーカーは電動2輪車用交換式バッテリーのためのコンソーシアムを創設したのは、まさにこれを解決するためです。

ゆくゆくは既に台湾などで整備が始まっている、「交換式バッテリー」のためのインフラを世界に構築し、そのイニシアチブをとるための第一歩。


台湾メーカーGOGOROのバッテリースワップシステム。

これは早急な発展を期待します。

現状、今回お借りした2台では、いずれも乗り心地はまずまずながら「バッテリーに縛られる」という印象が否めません。

ただ、将来的に1回の補給による航続距離を、せめて今の内燃機の3/4くらいまで延ばすことが可能になり、街々にバッテリースワップステーションができてくれれば事情は変わってくるでしょう。

例えるなら今のEV2輪は1988年ころのショルダーフォンの様な存在。


映像参照元;NTT DOCOMO歴史展示スクエア

これが現代のスマホにまで発展するとは、当時誰が予想できたでしょう?

常識は変わるもの。

今の姿からEVを悲観することはないと私は思います。

恐らくEV2輪の発展が、EVモビリティー全体の発展をリードするのではないかと考えています。

もしEV開発に注文を付けられるとしたら、単なる移動手段としてではなく、バイクらしい楽しみは残しておいて欲しいですね。

EV2輪の乗り味にも「ときめき」は必要です。




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